一 強盜傷人罪は財物強取の手段としてなされた暴行に基いて傷害を與えた場合でなくとも、強盜の機會において傷害を與えれば足るのである。 二 強盗傷人罪は所謂結果犯であつて、傷害に對する故意又は過失の有無にかかわらず、常に結果に對して責を負はなければならない。 三 強盜行爲が未遂であつても強盜傷人罪の成立をさまたげるものではない。 四 刑事訴訟法第一一〇條は、檢事裁判所の同意を得て勾留された被告人を他の刑務所に移すことができる旨を規定しているが、右同意については別段様式を定めていないから、同意の書面がないというだけで本件の勾留は違法であるとはいい得ない。 五 假りに勾留手續の違法があつても、其手續の違法は、判決に影響を及ぼさないから、これを上告の理由とすることはできない。 六 公判調書に公開を禁じた旨の記載がない限り、公判は公開して行はれたものと認めるのが相當であつて、裁判を公開したことを公判調書に記載しなくとも憲法に違反しないことは、當裁判所の判例とするところである。
一 強盜の機會になされた傷人と強盜傷人罪の成立 二 強盜傷人罪における傷害の故意又は過失の有無 三 強盜行爲の未遂と強盜傷人罪の成立 四 移監手續に裁判所の同意の書面がない場合と勾留の適否 五 勾留手續の違法と上告理由 六 公判公開を公判調書に記載の要否
刑法240條,舊刑訴法110條,舊刑訴法411條,舊刑訴法60條2項4號,憲法82條
判旨
強盗の機会に傷害が生じれば、財物強取の手段たる暴行によるものでなくても強盗傷人罪が成立し、共謀に基づく強盗の機会に共犯者が傷害を負わせた場合、他の共犯者もその責を負う。
問題の所在(論点)
1. 強盗の手段ではない暴行により傷害が生じた場合に強盗傷人罪が成立するか。2. 強盗を共謀した者が、共犯者による「強盗の機会」の傷害について、傷害の共謀がなくても責任を負うか。3. 発見されて逃走した場合に中止犯が成立するか。
規範
1. 強盗傷人罪(刑法240条)は、財物強取の手段としてなされた暴行により傷害を与えた場合に限らず、強盗の機会に傷害を与えれば成立する。2. 同罪は結果的加重犯であり、傷害の故意の有無を問わず、強盗行為が未遂であっても成立を妨げない。3. 強盗を共謀した者は、強盗の機会において共犯者がなした傷害行為について、その認識や傷害自体の共謀がなくとも、共同正犯としての責任を免れない。
重要事実
被告人は共犯者Aと強盗を共謀した。Aは被害者宅に侵入したが、家人に気づかれたため財物を奪わずに逃走しようとした。その際、Aは逃げる途中で被害者の三男に対し傷害を負わせた。被告人は、Aの傷害行為について認識がなく、また傷害の共謀もなかったとして、強盗傷人罪の共同正犯としての責任を争った。あわせて、家人に発見されて逃走した行為が中止犯(刑法43条但書)に当たるかも問題となった。
あてはめ
1. 強盗傷人罪は強盗の機会における傷害を処罰する趣旨であるから、逃走途中の暴行による傷害であっても同罪を構成する。2. 被告人はAと強盗を共謀している以上、その実行行為たる強盗の機会に生じた傷害結果については、特段の認識がなくても結果的加重犯の理により共同正犯の責任を負う。3. 被告人らは「泥棒」と叫ばれたために驚いて逃げ出しており、これは自己の意思による中止ではなく、意外の出来事による障害未遂と解されるため、中止犯の規定は適用されない。
結論
被告人は、Aの傷害行為を認識せず共謀がなかったとしても、強盗を共謀した以上、強盗の機会に生じた傷害について強盗傷人罪の共同正犯の責を負う。また、中止犯は成立しない。
実務上の射程
強盗致死傷罪における「強盗の機会」の広さと、共謀共同正犯における結果的加重犯の帰責範囲を示す重要判例である。答案では、強盗の実行着手後に生じた結果であれば、手段たる暴行によるものでなくても240条を適用する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和33(あ)1694 / 裁判年月日: 昭和34年5月22日 / 結論: 棄却
被告人が第一現場において被害者の運転するタクシーの車内で料金の支払を免れ、かつ金員強取の目的で被害者に拳銃を突付け金を要求したが同人が応じないため一旦下車し、その後再び右タクシーに乗車した約五、六分の後約六千米距つた第二現場である交番前に致つた際、逃走せんがため格斗の末その車内において右拳銃をもつて被害者の頭部を殴打し…
事件番号: 昭和24(れ)293 / 裁判年月日: 昭和24年7月23日 / 結論: 棄却
既に共謀して強盜をした以上、かりに、所論のごとく他の共犯者の暴行の結果たる傷害について被告人に故意、過失がなかつたとしても被告人も、また強盜傷人罪について共同正犯の責を負わなければならないのである。(昭和二三年(れ)第二四九號同年六月一二日第二小法廷判決)
事件番号: 昭和26(れ)703 / 裁判年月日: 昭和26年7月5日 / 結論: 棄却
強盗傷人罪が成立するには、強盗の機会に傷害の結果を発生せしめるを以て足りるものであつて、必ずしも強盗の手段である暴行又は脅迫により人を傷害し、又は傷害の意思を必要とするものではない。