被告人が第一現場において被害者の運転するタクシーの車内で料金の支払を免れ、かつ金員強取の目的で被害者に拳銃を突付け金を要求したが同人が応じないため一旦下車し、その後再び右タクシーに乗車した約五、六分の後約六千米距つた第二現場である交番前に致つた際、逃走せんがため格斗の末その車内において右拳銃をもつて被害者の頭部を殴打して傷害を負わせた本件傷害の所為はその強盗の機会に犯されたものというべきで強盗と別の機会になされた別個独立の行為とはいえない。
傷害行為が強盗の機会に犯されたものと認められる事例。
刑法238条,刑法240条
判旨
強盗犯人が被害者に傷害を負わせた場合、時間的・場所的近接性に加え、被害者の同一性や犯行の意図に照らし、強盗の機会に行われたものと認められるときは、強盗傷人罪が成立する。
問題の所在(論点)
強盗行為(金銭要求)の終了後に、場所を移動して行われた傷害行為について、刑法240条の「強盗が、人を負傷させた」(強盗の機会)に該当し、強盗傷人罪が成立するか。
規範
傷害行為が強盗の機会になされたといえるか否かは、①時間的近接性、②場所的近接性、③被害者の同一性、④犯行の意図(前後の行為の関連性)といった諸要素を総合考慮して判断する。強盗の完了後であっても、これらの近接性や関連性が認められる限り、強盗傷人罪(刑法240条)が成立する。
重要事実
被告人は、タクシー車内で運転手に対し拳銃を突きつけて金銭を要求した(第一現場)。その後、同車両に乗車し続けたまま約5〜8分間走行し、約6km離れた交番付近(第二現場)に至った。停車した際に、被告人は逃走を図る目的で、格闘の末に運転手の頭部を拳銃で殴打し、傷害を負わせた。
事件番号: 昭和23(れ)1497 / 裁判年月日: 昭和24年3月1日 / 結論: 棄却
一 強盜傷人罪は財物強取の手段としてなされた暴行に基いて傷害を與えた場合でなくとも、強盜の機會において傷害を與えれば足るのである。 二 強盗傷人罪は所謂結果犯であつて、傷害に對する故意又は過失の有無にかかわらず、常に結果に對して責を負はなければならない。 三 強盜行爲が未遂であつても強盜傷人罪の成立をさまたげるものでは…
あてはめ
本件では、第一現場から第二現場までの移動時間は約5分から8分であり、距離も約6kmに過ぎないことから、時間的・場所的近接性が認められる。また、暴行の対象も強盗の被害者と同一人物である。さらに、傷害行為は強盗の発覚を免れ逃走するために行われたものであり、当初の強盗行為から一連の意図の下で継続している。したがって、本件傷害は新たな決意に基づく別個独立の行為ではなく、強盗の機会に行われたものと評価できる。
結論
被告人の行為は強盗傷人罪を構成する。第一現場での強盗行為と第二現場での傷害行為は別個無関係の行為とは認められず、強盗の機会における傷害に当たる。
実務上の射程
強盗傷人罪の「強盗」の機会の範囲を画定するリーディングケースの一つ。強盗の既遂・未遂を問わず、また財物奪取との因果関係が直接的でなくとも、逃走や証拠隠滅を目的とした負傷であれば、時間的・場所的近接性を重視して広範に本罪の成立を認める傾向にある。
事件番号: 昭和34(あ)1686 / 裁判年月日: 昭和37年8月21日 / 結論: 棄却
原判決が原判示の傷を傷害と認め、被告人らの所為をもつて刑法240条前段に問擬したのは正当である。 (原判決の要旨) 被告人AはBの首を後から右手でしめつけ、相被告人Cは前からBの顔部下部及び腹部を手拳で数回殴りつけ、右暴行によりBに対し治療約三日を要する頸部絞扼傷及び口内創等の傷害を負わせたものであつて、なるほど頸部絞…
事件番号: 昭和31(あ)3767 / 裁判年月日: 昭和34年6月12日 / 結論: 棄却
某工場で窃盗した者が、現場から一〇メートル位距つた同工場塀外の路上で、折柄警戒中の巡査に発見せられ、現行犯人として追跡を受け、約六〇メートル進んだ地点で逮捕されようとしたので、これを免れるため、手拳で右巡査の胸部を突くなどの暴行を加え、格闘したが、程なく抵抗を止め、同巡査からシヤツの襟をつかまれて附近の前記工場守衛詰所…