某工場で窃盗した者が、現場から一〇メートル位距つた同工場塀外の路上で、折柄警戒中の巡査に発見せられ、現行犯人として追跡を受け、約六〇メートル進んだ地点で逮捕されようとしたので、これを免れるため、手拳で右巡査の胸部を突くなどの暴行を加え、格闘したが、程なく抵抗を止め、同巡査からシヤツの襟をつかまれて附近の前記工場守衛詰所へ連行される途中、二、三〇メートル進んだ所で、右巡査の隙を窺い、その手を振りきつて逃げ出し、更に、逮捕を免れるため、手拳で同巡査の首辺を殴打し、胸部を突いてその場に顛倒させ或いは足蹴にする等の暴行を加えた場合には、刑法第二三八条にいう「窃盗財物ヲ得テ逮捕ヲ免レル為メ暴行ヲ為シタルトキ」にあたる。
刑法第二三八条の強盗にあたる事例。
刑法238条
判旨
他人の財物を窃取した者が、被害者に発見されて逮捕を免れるために暴行を加え、よって負傷させた場合には、強盗致傷罪が成立する。
問題の所在(論点)
窃盗犯人が逮捕を免れるために暴行を加えて負傷させた場合に、事後強盗の規定を適用して強盗致傷罪(刑法240条、238条)を成立させることができるか。
規範
窃盗犯人が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、または逮捕を免れ、もしくは罪跡を隠滅するために暴行または脅迫をしたときは、強盗として論ずる(刑法238条)。この事後強盗の機会に人を負傷させた場合には、刑法240条の強盗致傷罪が成立する。
重要事実
被告人が他人の財物を窃取したが、その際被害者に発見された。被告人は被害者による逮捕を免れるために、被害者に対して暴行を加え、その結果被害者に負傷を負わせた。第一審・控訴審ともに強盗致傷罪の成立を認め、被告人が上告した事案である。
あてはめ
被告人は窃盗の実行後に被害者に発見されており、その目的は「逮捕を免れるため」であったといえる。また、その手段として「暴行」を用いており、それによって被害者を負傷させている。したがって、刑法238条の規定により強盗として論じられる要件を満たしており、かつ240条の負傷の結果が発生しているため、強盗致傷罪が成立すると解される。
結論
被告人に強盗致傷罪を認めた原判決は正当であり、本件には強盗致傷罪が成立する。
実務上の射程
事後強盗罪(238条)が成立する場合に、240条が適用されることを当然の前提とする判例である。答案上は、窃盗の機会に行われた暴行が逮捕免脱目的等であることを指摘した上で、240条の強盗致傷罪に繋げる構成をとる際の根拠となる。
事件番号: 昭和31(あ)863 / 裁判年月日: 昭和33年10月31日 / 結論: 棄却
窃盗犯人が現行犯として被害者に逮捕せられ警察官に引き渡されるまでの間に、逮捕状態を脱するため暴行をすることも、刑法第二三八条の「逮捕ヲ免レ」るための暴行にあたる