窃盗犯人が、進行中の電車内で現行犯として車掌に逮捕され、約五分経過後到着駅ホームを警察官に引渡のため連行されている際に、逃走を企て右車掌に暴行したときは、刑法第二三八条の「逮捕ヲ免レ」るための暴行にあたる。
刑法第二三八条の「逮捕ヲ免レ」るための暴行にあたる事例。
刑法238条,刑訴法213条,刑訴法214条
判旨
刑法238条にいう「逮捕を免れ」る目的には、窃盗犯人が現行犯逮捕された後、警察官に引き渡されるまでの間に被逮捕状態を脱する目的も含まれる。また、窃取から5分後、別の場所で行われた暴行であっても、窃盗の現行の機会延長の状態にあるといえるならば事後強盗罪が成立する。
問題の所在(論点)
現行犯逮捕されて連行中の窃盗犯人が、警察官に引き渡される前に逃走目的で暴行を加えた場合、刑法238条の「逮捕を免れ」るための暴行にあたるか。また、窃取から5分経過し、場所が移動している場合に窃盗の機会との密接性が認められるか。
規範
事後強盗罪(刑法238条)の「逮捕を免れ」る目的とは、現行犯として一応逮捕された者が、警察官に引き渡されるまでの間に被逮捕状態を脱するため暴行を加える場合を含む。また、同罪の成立には、暴行・脅迫が「窃盗の現行の機会延長の状態」で行われることを要する。
重要事実
被告人は走行中の電車内で乗客の財布を掏り取ったが、乗務車掌に現行犯逮捕された。逮捕から約5分後、警察官に引き渡すべく連行されている途中の駅ホームにおいて、車掌の隙を窺い逃走を企てて暴行を加え、傷害を負わせた。
事件番号: 昭和31(あ)863 / 裁判年月日: 昭和33年10月31日 / 結論: 棄却
窃盗犯人が現行犯として被害者に逮捕せられ警察官に引き渡されるまでの間に、逮捕状態を脱するため暴行をすることも、刑法第二三八条の「逮捕ヲ免レ」るための暴行にあたる
あてはめ
被告人は現行犯として一応逮捕されているが、警察官に引き渡されるまでの間は依然として逮捕・拘束が継続中であり、この状態から脱する行為は「逮捕を免れ」る目的に該当する。また、窃取から暴行までわずか5分という短時間であり、逮捕から連行中という一連の過程にある以上、電車からホームへ場所が移動していても、依然として窃盗の現行の機会延長の状態にあると評価できる。
結論
被告人の所為は事後強盗罪(および事後強盗致傷罪)を構成する。上告棄却。
実務上の射程
事後強盗罪の「窃盗の機会」の継続性について、時間的・場所的近接性に加え、犯人が継続的に追跡・拘束されているという「継続的緊張状態」を重視する実務の基礎となる判例である。現行犯逮捕後の連行中も「機会」に含まれることを明示した点で重要である。
事件番号: 昭和31(あ)3767 / 裁判年月日: 昭和34年6月12日 / 結論: 棄却
某工場で窃盗した者が、現場から一〇メートル位距つた同工場塀外の路上で、折柄警戒中の巡査に発見せられ、現行犯人として追跡を受け、約六〇メートル進んだ地点で逮捕されようとしたので、これを免れるため、手拳で右巡査の胸部を突くなどの暴行を加え、格闘したが、程なく抵抗を止め、同巡査からシヤツの襟をつかまれて附近の前記工場守衛詰所…
事件番号: 平成12(あ)411 / 裁判年月日: 平成14年2月14日 / 結論: 棄却
窃盗犯人が他人の居宅で財物を窃取した後もその天井裏に潜み,犯行の約3時間後に駆け付けた警察官に対し逮捕を免れるため暴行を加えたなど判示の事実関係の下においては,その暴行は窃盗の機会の継続中に行われたものというべきである。