被害者の供述と判示事實との間に傷害の部位の一部である上膊の右左についてのみ齟齬があつたからといつて判決の結果に影響を及ぼすものとはいえないから原判決には所論のように虚無の證據によつて事實を確定したという違法はない。
傷害の部位の一部について認定事實と被害者の供述との間に齟齬ある場合と虚無の證據
刑訴法360條1項,刑訴法410條19號
判旨
窃盗犯が逮捕を免れるために暴行を加えた場合において、被害者の供述と客観的証拠との間に些細な齟齬があったとしても、他の証拠により暴行および傷害の事実が認められる限り、事後強盗罪の成立を妨げない。
問題の所在(論点)
被害者の供述と診断書の間で傷害部位の左右に齟齬がある場合や、判決文に「暴行を加えた」とする具体的な態様の記述に含みがある場合でも、罪責を認めるに足りる事実認定として適法か。事後強盗における暴行の認定要件が問われた。
規範
事後強盗罪(刑法238条)における「暴行」の有無およびそれによる「負傷」の認定については、被害者の供述内容のみならず、医師の診断書等の客観的証拠を総合して判断すべきである。また、証拠間で事実の一部(身体部位の左右等)に齟齬があったとしても、それが判決の基礎となる主要事実の認定を左右しない程度のものであれば、事実誤認の違法があるとはいえない。
重要事実
被告人はラジオ等を窃取した後、逮捕を免れる目的で被害者Aに対し、数回ねじ伏せ、靴で蹴り、手で口を押さえる等の暴行を加えた。Aはこれにより傷害を負ったが、予審廷におけるAの供述では負傷部位の左右が実際とは逆になっていた。一方で、医師Bによる診断書では正しい傷害部位が記載されていた。第一審および控訴審は、これらの証拠に基づき事後強盗傷人罪(現行法の構成に準ずる)の成立を認めたため、被告人が事実誤認を理由に上告した。
事件番号: 昭和23(れ)1861 / 裁判年月日: 昭和24年4月30日 / 結論: 棄却
自白を補強する証拠は、必ずしも自白にかかる犯罪構成事実の全部にわたる必要はなく、自白にかかる事実の真実性を保障し得るものであれば足りる。
あてはめ
まず、傷害部位に関するAの供述と診断書の齟齬については、診断書という客観的証拠により実際の傷害部位が特定されており、単なる左右の言い間違え等は判決の結果に影響を及ぼさない。次に、暴行の態様について、判決文に「等」という表現が含まれていても、予審訊問調書によれば「ねじ伏せる」「靴で蹴る」「口を押さえる」といった具体的な暴行事実が認められる。したがって、逮捕を免れる目的でなされたこれらの行為は、事後強盗罪の構成要件である暴行に該当すると評価される。
結論
被告人は、逮捕を免れるために被害者に対し暴行を加え、傷害を負わせたものと認められるため、事後強盗罪(および傷人罪)の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
事後強盗罪の認定において、証拠間に些細な矛盾(負傷部位の左右の取り違え等)があっても、証拠全体から暴行・傷害の事実が合理的に推認できれば、認定が維持されることを示す。実務上は、供述の些細な変遷を理由とした事実誤認の主張を退ける際の根拠として機能する。
事件番号: 昭和23(れ)1272 / 裁判年月日: 昭和24年2月22日 / 結論: 棄却
刑法第二四〇條前段の強盜傷人罪は、強盜犯人が強盜の機會において人を傷害した場合を犯情の重いものとして通常の傷害罪と區別して處斷することとした結果的加重犯であるから、いやしくも傷害の結果が發生した以上、強盜行爲が既遂であると未遂であるとを問わず、同條の既遂罪が成立するのである。されば所論のように窃盜行爲が未遂であるため、…