被告人が、窃盗の際、逮捕を免れるため、匕首で巡査の右大腿部を突き刺した事實に對し、原判決が、刑法準強盗傷人罪の規定だけを適用し、公務執行妨害罪に關する刑法第九五條を適用しなかつたことは、確定したる事實に對し刑法の正條が適用せざる違法というべきであるが、本件被告人の準強盗傷人の所爲と、公務執行妨害の所爲とは、刑法第五四條第一項にいわゆる「一個ノ行爲ニシテ數個ノ罪名ニ觸レ」る場合にあたるのであるから、同條および同法第一〇條の規定に從つて、重き準強盗傷人の罪の刑によつて處斷さるべきである。しかるに原判決は刑法第九五條の適用はこれを逸したけれども、やはり準強盗傷人罪の刑によつて、被告人を處斷したことは、原判文上明らかであつて、結局、被告人に對する量刑の基準となるべき法條の適用については、誤りはないのである。從つて、所論の違法は、畢竟判決に影響を及ぼさないこと明白な場合というべきで、原判決を破毀すべき瑕疵とはならないのである。
窃盗犯人が逮捕を免れるため巡査に暴行して傷害を與えたときの擬律
刑法238條,刑法240條,刑法95條,刑法54條,刑法10條
判旨
窃盗犯が逮捕を免れるために警察官に暴行を加えて傷害を負わせた場合、準強盗傷人罪と公務執行妨害罪が成立し、これらは一個の行為で数個の罪名に触れる観念的競合の関係に立つ。
問題の所在(論点)
窃盗犯が逮捕を免れるために警察官に暴行を加え傷害を負わせた行為について、準強盗傷人罪に加えて公務執行妨害罪が成立するか。また、両罪の罪数関係はどうなるか。
規範
一個の行為が数個の罪名に触れる場合(刑法54条1項前段)、いわゆる観念的競合として、その中で最も重い刑を定めた罪の刑によって処断すべきである。公務員に対し、その職務の執行を妨害する目的で暴行を加え、かつ準強盗として傷害の結果を生じさせたときは、両罪の構成要件を共に充足し、一個の行為による観念的競合となる。
重要事実
被告人は、窃盗を犯した後、逮捕を免れる目的で追跡してきた警察官Aに対し、携行していた匕首で同人の右大腿部を突き刺して傷害を負わせた。原審は、準強盗傷人罪(刑法240条、238条)の規定のみを適用し、公務執行妨害罪(刑法95条)の規定を適用していなかった。
あてはめ
被告人の行為は、警察官の逮捕という公務の執行を妨害するものであると同時に、準強盗の機会に傷害を負わせたものである。したがって、準強盗傷人罪のみならず公務執行妨害罪の構成要件も充足する。もっとも、これらの罪は被告人が匕首で突き刺したという一個の行為によって引き起こされたものであるから、刑法54条1項前段の観念的競合にあたる。原判決が公務執行妨害罪の適用を漏らした点は法条適用の誤りであるが、最も重い準強盗傷人罪の刑によって処断している以上、量刑の基準に誤りはなく、判決に影響を及ぼさない。
結論
被告人の所為は準強盗傷人罪と公務執行妨害罪の観念的競合となる。原判決に法条適用の不備はあるが、結論において量刑に誤りはないため、上告を棄却する。
実務上の射程
強盗(準強盗)が公務員に対してなされた場合の罪数関係を示す重要判例である。答案上は、公務執行妨害罪の成否を検討した上で、強盗傷人罪等との関係を「一個の暴行によるものであるから観念的競合(54条1項前段)となる」と簡潔に論じる際に用いる。
事件番号: 昭和23(れ)300 / 裁判年月日: 昭和23年6月24日 / 結論: 棄却
被害者の供述と判示事實との間に傷害の部位の一部である上膊の右左についてのみ齟齬があつたからといつて判決の結果に影響を及ぼすものとはいえないから原判決には所論のように虚無の證據によつて事實を確定したという違法はない。