原審公判調書を調べてみると被告人が右のやうに「昭和二二年四、五月頃から怪しいと思う雇人にAの後をつけさせたと」いう趣旨の供述はどこにも全く見當らない。それゆえ、原審が前記のような被告人の供述があつたものとして右の供述を他の證據と綜合して、被告人に對し昭和二二年四月六日頃以後の贓物故買の事實を認定したことは、虚無の證據によつて犯罪事實を認定した違法がある。そしてその違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから論旨は理由がある。(昭和二三年(れ)第六八四號、同年一二月二七日當裁判所大法廷判決参照)
虚無の證據により犯罪事實を認定した判決の違法
舊刑訴法336條,舊刑訴法360條1項,舊刑訴法410條19號
判旨
裁判所が判決の基礎となる事実を認定するに際し、公判調書等の証拠記録上に存在しない供述を証拠として採用することは、虚無の証拠による事実認定として許されない。
問題の所在(論点)
証拠記録上に存在しない供述内容を、犯罪事実認定の証拠として採用することの是非(自由心証主義の限界と証拠裁判主義違反の成否)。
規範
事実の認定は、証拠能力があり、かつ適法な証拠調べを経た証拠に基づかなければならない。証拠として掲げられた内容が記録上存在しない場合には、虚無の証拠によって犯罪事実を認定したものとして、判決に影響を及ぼす明らかな法令違反(証拠法則違反)となる。
重要事実
被告人が贓物故買の罪で起訴された事案において、原審は「昭和22年4、5月頃から怪しいと思い雇人に後をつけさせた」旨の被告人の供述を証拠に挙げ、犯意(贓物の認識)を認定した。しかし、実際の原審公判調書を確認したところ、被告人がそのような趣旨の供述をした事実はどこにも記載されていなかった。
あてはめ
原審は、被告人が特定の時期から不審を抱き、調査を行ったという供述を事実認定の柱の一つとしている。しかし、公判調書にはこれに対応する記載が全く見当たらない。したがって、原審は存在しない証拠を基礎として贓物故買の主観的態様を認定したといわざるを得ず、事実認定の根拠を欠いている。
結論
虚無の証拠によって事実を認定した違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるため、原判決を破棄し差戻すべきである。
実務上の射程
刑事訴訟法317条の証拠裁判主義、および自由心証主義(318条)の限界を論じる際の基礎となる判例である。答案上では、裁判所による「認定事実と証拠の不一致」や「証拠の飛躍・ねじ曲げ」が著しい場合に、本判例の理屈を用いて事実誤認または法令違反(証拠法則違反)を指摘する際に活用できる。
事件番号: 昭和24(れ)3099 / 裁判年月日: 昭和24年7月14日 / 結論: 棄却
作成者が直接の盜難被害經驗者でなくてもその内容が自己の管掌事項について窃盜犯人の供述を照會して盜難被害を認める旨の盜難被害始末書は舊刑訴法及び刑訴應急措置法の下において賍物故買事件について證據能力なしとはいえない。