公判調書に矛盾した記載や不明確な記載が爲されてある場合には、他の資料によつてその正誤を判定解釋することは毫も違法ではないのである。從つて他の資料に據るも尚その調査記載の矛盾や、不明確、即ちその記載の正誤が判定解釋がつかず延いて問題の點について、公判手續の適正に行はれた事が證明されず然もその事項が原判決破毀の原因となるものである場合において、爰に始めて當該公判調書の記載の不完全が判決に影響を及ぼすものと解すべきである。
公判調書の記載上の矛盾や不明確を他の資料によつて判定することの可否と上告理由
舊刑訴法64條,舊刑訴法337條,舊刑訴法411條
判旨
公判調書の記載に矛盾や不明確な点がある場合、他の資料によってその正誤を判定・解釈することは適法であり、客観的な状況から誤記であることが明らかな場合には、当該記載をもって直ちに判決の違法事由とはならない。
問題の所在(論点)
公判調書の記載が事実に反する矛盾を含む場合において、当該調書の記載のみを根拠として手続の違法(弁護権の侵害等)を主張できるか。公判調書の記載の正誤を判断するために、他の資料を参酌することの可否が問題となる。
規範
公判調書に矛盾した記載や不明確な記載がある場合には、他の資料に拠ってその正誤を判定・解釈することは違法ではない。他の資料によっても記載の正誤が判定できず、公判手続の適正性が証明されないまま、その事項が判決の破棄原因となる場合に限り、調書の不完全が判決に影響を及ぼすものと解すべきである。
重要事実
被告人が盗品等有償譲受け(故買)の罪に問われた事案。原審の第一回公判調書末尾には「弁護人は被告人の有利のため種々弁論し…」との記載があった。しかし、本件は必要的弁護事件ではなく、記録上も弁護人選任届や呼出手続の形跡がなく、調書内に出頭の記載もなかった。当該調書は、弁護人が付される事件用の謄写刷(定型文付き用紙)を流用したものであった。
あてはめ
本件では、①非必要的弁護事件であること、②選任届がないこと、③呼出手続がないこと、④出頭の記載がないこと、⑤定型文付きの用紙を流用していたことから、調書上の弁護人弁論の記載は、不要な文言の抹消を忘れた「誤記」であることが他の資料・状況から客観的に判定できる。したがって、調書に弁論の記載があるからといって、実際に弁護人が出頭・弁論した事実は認められない。
結論
公判調書の記載が誤記であることが他の資料により判定できる以上、原判決に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
刑事訴訟法44条や52条が定める公判調書の証明力に関連し、調書の記載内容に明らかな矛盾がある場合の解釈指針を示す。実務上、調書が絶対的な証明力を有するのは「公判期日における訴訟手続の規定の遵守」に関する事項であるが、記載自体が物理的・論理的に矛盾している場合にまでその形式的記載を絶対視するものではないことを明示している。
事件番号: 昭和26(れ)207 / 裁判年月日: 昭和26年11月2日 / 結論: 破棄自判
職権により記録を調査するに、本件公判請求書(記録三四丁)によれば、被告人に対する公訴事実として「司法警察官意見書記載の犯罪事実、但(3)の事実を除く」と記載しあるところ、第一審においては右公判請求書において除外し起訴しなかつた右司法警察官の意見書記載の(3)の事実に対しても審判をなしたる上、有罪の認定をしており、そして…