一 舊刑訴第七一條第二項は、公文書の公正を期するために訓示的規定に過ぎないのであるから、たとい、その一部に同條項所定の契印が缺如しているとしても、その形式及び内容に照らし正當の連絡がありその間に落丁又は後日の剥脱等のないことが認められるときは、契印遺脱の一事を以て直ちに該文書を無効となすべきではない。 二 同一事實に關するものと認め得られる數多の證據を綜合認定の思料とする場合、その一部において相互に牴觸する點があるとしても、論理の法則又は實驗則に反しない限り自由心證により、その一を捨て他を採用することはもとより妨げないところである。そして刑事被告人がその犯行につき數度訊問せられる場合、その犯行場所に關し時に誤つて別異の供述をなすことは、必ずしも稀有のことではないのであるからその一を捨て他を採用したからというてこの一事を捉えて實驗則に背反するものということではない。
一 舊刑訴第七一條第二項の規定の性質と契印の缺く書類の効力 二 相互に牴觸する部分ある數多の證據についての裁判所の取捨自由
舊刑訴法71條2項,舊刑訴法337條
判旨
公判調書の契印漏れがあっても、形式・内容から正当な連絡が認められ、落丁等の疑いがない限り直ちに無効とはならない。また、証拠間に抵触があっても、論理則・経験則に反しない限り、自由心証により取捨選択することが認められる。
問題の所在(論点)
1. 公判調書の一部に契印の欠如がある場合、その調書は無効となるか(旧刑訴法71条2項の性質)。 2. 証拠間に矛盾がある場合、一部の証拠を排斥して事実を認定することは許されるか(自由心証主義の限界)。
規範
1. 公判調書の契印に関する規定は公文書の公正を期するための訓示規定であり、契印が欠如していても、形式及び内容に照らし正当に連絡があり、落丁又は後日の剥脱等がないことが認められるときは、直ちに無効とはならない。 2. 同一事実に関する複数の証拠に抵触がある場合でも、論理則や経験則に反しない限り、自由心証(裁量)により一方を捨て他を採用することは妨げられない。
重要事実
被告人らは贓物故買等の罪で起訴された。原審の公判調書において、第362丁と第363丁の間に書記官の契印が欠けていたが、冒頭から末尾までの筆跡や印影は同一であり、内容も公判手続の順序と符合していた。また、事実認定において、原審は被告人の供述調書と公判廷供述で犯行場所に食い違いがあったが、直接尋問した公判廷供述を採用して事実を認定した。被告人側は、調書の無効と証拠選択の不合理を理由に上告した。
あてはめ
1. 本件調書は、全葉にわたり同一の書記官の印影・筆跡が確認され、第362丁の余白への斜線と認印により次丁への継続性が示されている。内容面でも証拠調べ終了から検察官の意見陳述へと手続が自然に繋がっており、一体性が認められるため、契印漏れのみで無効とはならない。 2. 被告人の供述に変遷があっても、犯行の日時や物件が同一であると認められる以上、裁判所が直接尋問した際の供述をより信用できるとして採用することは、自由心証の合理的な範囲内である。
結論
1. 公判調書の有効性を認め、これに基づく事実認定に違法はない。 2. 証拠の取捨選択は裁判所の正当な裁量に属し、経験則に反する点はない。本件上告を棄却する。
実務上の射程
公判調書の作成手続に軽微な瑕疵(形式的不備)がある場合でも、実質的な真正が担保されれば証拠能力を否定しないとする実務上の指針。また、供述の変遷に対する証拠評価において、公判廷供述を優先する判断の合理性を肯定する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和24(れ)1346 / 裁判年月日: 昭和24年7月26日 / 結論: 破棄差戻
原審公判調書を調べてみると被告人が右のやうに「昭和二二年四、五月頃から怪しいと思う雇人にAの後をつけさせたと」いう趣旨の供述はどこにも全く見當らない。それゆえ、原審が前記のような被告人の供述があつたものとして右の供述を他の證據と綜合して、被告人に對し昭和二二年四月六日頃以後の贓物故買の事實を認定したことは、虚無の證據に…