所論の如く原審においては、押收にかかる斧と腕時計とについて特に證據調手續をした形跡はなくまた事實調の途中において右二品を被告人に示した形跡もない。しかし原判決においては、右二品を有罪認定の證據として採用していないのであるから、右二品について證據調をしないからとて所論の如き違法があるとはいえない。
採證の用に供しなかつた物につき證據調をすることの要否
刑訴法336條,刑訴法341條
判旨
被告人の供述が、単に犯意を否認する趣旨であって、実行着手後に自己の意思で中止したという趣旨でないと解される場合には、中止犯(刑法43条但書)の成立を否定すべきである。
問題の所在(論点)
被告人の供述が、単に犯意を否認する趣旨にすぎないのか、それとも実行着手後の「自己の意思による中止」(刑法43条但書)を主張する趣旨を含むのかという供述の解釈、およびそれに対する裁判所の判断義務が問題となった。
規範
被告人の公判における供述の内容が、犯罪の実行に着手した後、自己の意思によってこれを中止したという事実を主張するものではなく、単に犯意(殺意等)を否認する趣旨であると解釈される場合には、刑法上の「自己の意思により犯罪を中止した」ものとは認められず、中止犯に関する判断を示す必要はない。
重要事実
被告人が殺人未遂等の罪に問われた事案において、被告人は原審公判で一定の供述を行った。弁護人は、この供述が「殺害行為に着手した後、自己の意思でこれを止めた」という中止犯の主張を含むものであるとして、原判決がこれについて刑訴法上の判断を示さなかったことを違法と主張して上告した。
事件番号: 昭和26(れ)1087 / 裁判年月日: 昭和26年9月18日 / 結論: 棄却
論旨摘録にかかる原審公判廷における被告にAの供述によれば同人が犯行の半ばB方を逃げだしたのは、Bの女房に騒がれたためか、B本人が抵抗したためか、或は同人が抵抗しなくなつたことから被告人が恐ろしくなつたためであるか、何れとも認め得られるのであるが、いずれにしても本件の場合が障碍未遂であつて中止未遂でないことは疑ない。そし…
あてはめ
最高裁は、被告人の供述を精査した結果、それが判示された犯意(殺意)自体を否認する趣旨にすぎないと判断した。すなわち、一旦開始した殺害行為を自発的に止めたという「中止の意思」を述べるものではないと解釈した。このような解釈に法則違背はなく、中止犯の主張がなされていない以上、判決においてこれに対する判断を示す必要はないとした。
結論
被告人の供述は中止犯の主張を含むものとは認められないため、中止未遂は成立せず、判決に判断の遺脱もないとして上告を棄却した。
実務上の射程
被告人の供述が「否認」なのか「中止」なのかの解釈は事実認定の問題であるが、中止犯の成立には「自己の意思による中止」という積極的な主張・立証の契機が必要であることを示唆している。答案上は、被告人の弁解が単なる犯意の否定にとどまるのか、中止の要件を満たす事実の主張なのかを峻別する際の基準として活用できる。
事件番号: 昭和23(れ)668 / 裁判年月日: 昭和23年10月26日 / 結論: 棄却
一 原判決舉示の證據を以てすれば、本件被告人の所爲は、被害者の反抗を抑壓するに足る脅迫行爲を以て強盜をしようとしたものであるという事實が證明できるのであるから、原判決がこれに對して強盜未遂罪の罰條を適用したことは相當である。 二 刑事訴訟法第三四五條第一項は、「檢事ハ被告事件ノ要旨ヲ陳述スヘシ」というのみであるから、苟…