公判期日前、拘置所長から診斷書を添付して、被告人が胃潰瘍のため重態である旨の通報があつたにもかかわらず、裁判所は公判手續停止の決定をしないで第一回公判期日を指定し、手續を進行させても、最終の公判期日に被告人出頭の上、當初からの取調をやりなおして審理を終了し、これにもとずいて判決を言い渡した場合には、その判決手續は違法ではない。
被告人の疾病と公判手續の停止
刑訴法352條,刑訴法410條16號
判旨
被告人が重態であり公判手続の停止事由があるにもかかわらず、裁判所が停止措置を執らずに期日変更等で対応した場合でも、最終的に被告人が出頭可能な状態で審理が尽くされ不利益がない限り、当該手続は適法である。
問題の所在(論点)
被告人が重態で出頭不能な場合に、裁判所が公判手続の停止(刑訴法314条1項・旧法352条2項)を行わず、期日変更等の運用で対応した手続の適否が問題となる。
規範
被告人が心神喪失又は疾病により出頭できない状態にある場合、裁判所は刑訴法314条(旧刑訴法352条2項)に従い公判手続を停止すべきである。しかし、形式的な停止決定を経なくとも、事実上の期日変更や延期によって被告人の出頭と防御の機会が実質的に保障され、審理の結果として被告人に何ら不利益が生じていないのであれば、その手続経過に違法はない。
重要事実
被告人が胃潰瘍で重態である旨の診断書が提出されたが、原審は公判手続停止の措置を執らず、公判期日を指定した。被告人が出頭しなかったため、原審は病状照会や期日変更を繰り返し、被告人の回復を待った。その後、被告人が出頭可能となった期日に初めて被告人を出頭させ、当初からの取調をやり直して審理を終了し、判決を言い渡した。弁護人は、停止事由があるのに停止しなかった手続の違法を主張して上告した。
あてはめ
原審は、被告人が重態である通報を受けながら停止措置を執らなかったものの、被告人が欠席した期日では審理を進めず、再三の病状照会や期日変更を行っている。そして、被告人が回復し出頭した期日において改めて冒頭からの取調をやり直しており、実質的には被告人が出頭可能になるまで手続が停止されていたのと同等の状態にあった。このような運用は煩瑣ではあるが、被告人の防御権を侵害したとはいえず、被告人に何ら不利益を与えていない。したがって、原判決の基礎となった審理手続に違法はないと解される。
結論
公判手続停止の措置を欠いたとしても、実質的に被告人の出頭及び防御の機会が確保され、不利益が生じていない以上、その手続は適法である。
実務上の射程
公判手続の停止事由がある場合の裁判所の裁量的運用の限界を示す。形式的な停止決定の欠如が直ちに必要的破棄事由となるのではなく、実質的な不利益の有無(防御権侵害の有無)によって違法の程度を判断する際の基準として活用できる。
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一 該公判において爲された審理の範圍は上告理由書に書いてある丈けのこと(國籍登録手續をしたかどうか、日本の裁判權に服することに異議はないか、を訊ねたこと)で、犯罪の實體についての審理は何も爲されて居ない。而して第二回の公判においては辯護人立曾の上被告人の人違でないかどうかの點を初めとし、犯罪の實體に付き完全な手續を以て…