一 第一回の公判期日と被告人に對する召喚状送達との間に三日の猶豫期間がなくても被告人が右期日出頭して異議なく辯論したときはその公判手續は違法ではない。 二 犯罪の動機、被告人の人物、性格は、情状として、刑の量定の上に、重大な影響を及ぼすものであり、裁判所として、量刑に必要な限度において、詳しく取調べをしなければならぬことは所論のとおりである。しかし、これらの點に關し、いかなる限度に取調べをなすべきかということは、事實審裁判所にまかされているところである。 三 これら犯情に屬する事柄は、たとえ、これについて、公判で詳しく被告人を訊問した場合でも、その訊問及び供述を、もれなく調書に記載しなければならぬものでなく、その要旨を記載すれば足るのであるから、これらの點について、調書に詳細の記載がないからといつて、直ちに、原審は十分に取調べをしなかつたとはいえないのである。 四 被告人の人物、性格については、裁判官が、公判で、直接被告人の風貌に接して、親しくその言語、動作等を観察するによつても、また取調の進行につれて判明する被告人の犯罪行爲それ自體、およびその行爲と前後するいろいろの経緯からでも、或る程度の心證は得られるのであつて、辯護人の主張するように必ず、これらの點について、證人訊問をしたければならぬというものではない。 五 刑事訴訟法第三五〇條は裁判所は必要ある場合に辯論を再開することができるというのであつて、被告人又は辯護人にその請求をすることを權利として認めたものではなく、再開するか否かは具體的な事情に應じて、裁判所が自由な意見により決定して差支えないのである。
一 猶豫期間を存しない被告人の召喚と公判手續の適否 二 犯罪の情状についての取調べの限度 三 犯情に關する公判廷の取調べと公判調書の記載の程度 四 被告人の性格、犯情に關する取調べと證人訊問の要否 五 口頭辯論再開申請と再開の要否
刑訴法320條2項,刑訴法337條,刑訴法60條2項,刑訴法64條,刑訴法336條,刑訴法350條
判旨
公判期日の猶予期間に関する利益は放棄することが可能であり、被告人が異議を述べずに弁論を行った場合は暗黙の放棄があったものと解される。また、量刑事情の取調べ範囲や弁論再開の成否は、原則として裁判所の裁量に委ねられる。
問題の所在(論点)
1. 公判期日の猶予期間が遵守されない等の召喚手続の不備は、被告人の異議なき弁論によって治癒されるか。2. 裁判所は量刑事情(動機・性格等)についてどの程度の審理義務を負うか。3. 弁論再開の申請に対する裁判所の判断に裁量は認められるか。
規範
事件番号: 昭和23(れ)978 / 裁判年月日: 昭和23年11月18日 / 結論: 破棄差戻
一 事實審が法の執行猶豫の言渡をするには、まずその前提として法定要件の一つである被告人が「前ニ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタルコトナキ者」であることを判斷しなければならぬことはいうまでもない。しかしこの事實の判斷は、自由心證主義の下に經驗則に從い合理的に爲されれば足るのであるから、必ずしも常に前科調書にょつてこれが調査をしな…
1. 公判期日の召喚において法定の猶予期間(旧刑訴法321条1項)が遵守されなかった場合でも、被告人はその利益を放棄できる。被告人が期日に出頭し、異議を述べずに弁論したときは、暗黙の放棄があったと解すべきである。2. 犯行の動機や被告人の性格等の量刑事情について、どの程度の取調べを行うかは事実審裁判所の裁量に属する。3. 弁論の再開(旧刑訴法350条)は裁判所が必要と認めた場合に行うものであり、被告人側に請求権はなく、再開するか否かは裁判所の自由な裁量による。
重要事実
被告人Aは窃盗罪で起訴され、勾留中に原審の第一回公判期日に出頭した。記録上、被告人への適法な召喚手続や猶予期間(3日間)の確保を証明する書類は存在しなかった。しかし、被告人は公判に出頭し、異議を述べることなく弁論を行った。また、弁護人は原審が被告人の性格や動機等の量刑事情を十分に審理せず、弁論再開の申請も却下したことは違法であると主張して上告した。
あてはめ
1. 被告人Aは拘置所に勾留中であり、現に出頭して弁論していることから、召喚手続は事実上行われていたと推認できる。仮に猶予期間に不足があったとしても、被告人が期日に出頭して特段の異議を述べず弁論した以上、猶予期間の利益を暗黙に放棄したものといえ、手続上の違法は消滅する。2. 量刑事情についても、調書には学歴、経歴、家族構成、犯行に至る経緯等の要旨が記載されており、裁判官が直接被告人の言語・動作を観察していることも考慮すれば、必要な限度で取調べは行われている。詳細な記載や証人尋問が必須なわけではない。3. 弁論再開は裁判所の職権に属する事項であり、申請を却下したことに違法はない。
結論
被告人が異議なく弁論したことで手続違背は治癒されており、量刑事情の取調べや弁論再開の判断にも裁量権の逸脱はない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
手続的権利の放棄(特に公判期日の猶予期間)に関するリーディングケースである。被告人が手続不備を知りつつ、あるいは異議なく応訴した場合に、後からその不備を理由に無効を主張することを制限する法理として活用できる。また、量刑資料の取調べ範囲や弁論再開に関する裁判所の広範な裁量を肯定する根拠としても参照される。
事件番号: 昭和26(あ)476 / 裁判年月日: 昭和27年5月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由に当たらない主張や単なる訴訟法違反の主張は、刑訴法405条の上告理由には該当せず、特段の事情がない限り棄却される。 第1 事案の概要:被告人の弁護人が、原判決に判例違反および訴訟法違反があるとして上告を申し立てた。しかし、その判例違反の主張は、原判決が実際には判断を下していない事項を前提と…
事件番号: 昭和24(れ)1252 / 裁判年月日: 昭和24年7月5日 / 結論: 棄却
一 公判廷において證據調をした書類を公判調書に記載するには如何なる書類につき證據調がなされたかを明確にすれば足り、必ずしもその書類の一々に付き個別具體的に掲記する必要のないことは、しばしば當裁判所の判例(例へば昭和二二年(れ)第二七七號同二三年四月八日第一小法廷判決)に示されている通りである。 二 しかし憲法第三七條第…
事件番号: 昭和26(れ)1140 / 裁判年月日: 昭和26年9月14日 / 結論: 棄却
所論田沼弁護人は適法な呼出を受けながら故なく原審第二回公判期日に出頭しなかつたことは記録上明らかであつて(同弁護人提出の延期願は、他の被告人に関するものであつて、被告人Aの公判に関するものではない)かかる場合、右公判において被告人が同弁護人の弁論を抛棄した以上、裁判所は同弁護人の弁論を聞かないで結審しても、これを以て所…