論旨摘録にかかる原審公判廷における被告にAの供述によれば同人が犯行の半ばB方を逃げだしたのは、Bの女房に騒がれたためか、B本人が抵抗したためか、或は同人が抵抗しなくなつたことから被告人が恐ろしくなつたためであるか、何れとも認め得られるのであるが、いずれにしても本件の場合が障碍未遂であつて中止未遂でないことは疑ない。そして原判決挙示の証拠により原判示のような障碍未遂の事実を認定し得られないわけではない。
障碍未遂であつて中止未遂でない場合の一事例
刑法43条,旧刑訴法337条
判旨
犯行の半ばで逃走した原因が、被害者の妻に騒がれたこと、被害者の抵抗、あるいは被害者が抵抗しなくなったことへの恐怖のいずれであっても、自己の意思により犯罪を中止したとはいえず、刑法43条但書の中止未遂には当たらない。
問題の所在(論点)
犯行の途中で翻意して逃走した場合において、その動機が外部的事情(他人の叫び声や被害者の抵抗、心理的恐怖)に基づくものであるとき、刑法43条但書の「自己の意思による中止(中止未遂)」と認められるか。
規範
刑法43条但書の「自己の意思により犯罪を中止した」といえるためには、外部的障害の発生による断念ではなく、任意的な性格を有する動機に基づき犯行を中止したことが必要である。外部的事情により犯行の継続が困難になった場合や、発覚を恐れて中止した場合は、原則として障害未遂となる。
重要事実
被告人Aは、被害者Bに対し殺意をもって犯行に及んだが、その途中で現場から逃走した。逃走の動機については、Bの妻に騒がれたためか、B本人が抵抗したためか、あるいはBが抵抗しなくなったことで被告人が恐ろしくなったためか、証拠上複数の可能性が認められる状況であった。被告人は、これらの中止動機が任意的であり中止未遂が成立すると主張して上告した。
あてはめ
被告人が犯行を中止した原因が、(1)被害者の妻に騒がれたこと(外部的発覚の予兆)、(2)被害者が抵抗したこと(物理的障害)、(3)被害者が抵抗しなくなったことで恐怖を感じたこと(事態の進展に伴う心理的動揺)のいずれであっても、それは客観的な障害が生じたか、あるいは犯行の継続を断念せざるを得ない外部的状況の変化に起因するものといえる。これらはいずれも、純粋に自己の自由な意思によって犯行を思いとどまったものとは解されず、犯行の完成を阻む外的な支障に準ずる事態といえる。
結論
本件は中止未遂ではなく障害未遂にあたると解するのが相当であり、原判決に審理不尽や理由齟齬の違法はない。上告棄却。
実務上の射程
中止未遂の「任意性」の有無が争われる場面で、外部的障害の存在を広く認める例として活用できる。特に「被害者の沈黙への恐怖」といった内心の動機であっても、それが外部的事態の進展に伴う反射的な感情であれば任意性が否定され、障害未遂となると判断した点に実務上の意義がある。
事件番号: 昭和23(れ)1096 / 裁判年月日: 昭和23年11月2日 / 結論: 棄却
所論の如く原審においては、押收にかかる斧と腕時計とについて特に證據調手續をした形跡はなくまた事實調の途中において右二品を被告人に示した形跡もない。しかし原判決においては、右二品を有罪認定の證據として採用していないのであるから、右二品について證據調をしないからとて所論の如き違法があるとはいえない。
事件番号: 昭和23(れ)1680 / 裁判年月日: 昭和24年2月24日 / 結論: 棄却
被告人は巡査部長を射撃して、同人が被告人を追つかけることのできないようにしようと思つて、ことによつたら同人を射殺す結果になるかも知れないが、それもやむを得ないと考へ、ピストルを同人に向け發射し、同人が死んでしまつたのであるから、被告人が殺人罪に問われるのは當然である。