原判決は「全家不在に乘じて同家六畳間の箪笥の抽出等から同人所有の衣類等を窃取しようとしていた際たま〈家人が外出先から歸つて來たためその目的を遂げなかつたものである」旨を判示している。それ故、本件の未遂は、外界の事情に刺激されることなしに犯人が内心的原因により全く任意に中止したものではなく「全家不在に乘じて」窃盜の實行に着手していた際「たまたま家人が外出先から歸つて來た」と言う外界に生起した客観的原因により未遂に終つたものであることは、原判決において明らかに判示されている。従つて、本件を障害未遂と認定した原判決は、相當であつて所論の審理不盡の違法を認めることはできない。
窃盜の障害未遂に該る一場合と審理不盡の有無
刑法243條,刑訴法410條20號
判旨
窃盗の実行に着手した後、外界の事情に刺激されることなく内心的原因により任意に中止したのではなく、家人が帰宅するという客観的原因により目的を遂げなかった場合は、中止犯ではなく障害未遂に当たる。
問題の所在(論点)
窃盗の実行に着手した後、家人の帰宅という外界の事情によって犯行を断念した場合、刑法43条但書にいう「自己の意思により犯罪を中止した」ものとして中止犯が成立するか。
規範
刑法43条但書の「自己の意思により」犯罪を中止した(中止未遂)といえるためには、外界の事情に刺激されることなしに、犯人が内心的原因により全く任意に中止したことを要する。これに対し、外界に生起した客観的原因によって行為を断念した場合は、障害未遂(同条前段)に当たる。
重要事実
被告人は、全家不在に乗じて住宅に侵入し、六畳間の箪笥の引き出し等から衣類等を窃取しようとしていた。その際、たまたま家人が外出先から帰宅したため、窃盗の目的を遂げなかった。
事件番号: 昭和26(れ)1087 / 裁判年月日: 昭和26年9月18日 / 結論: 棄却
論旨摘録にかかる原審公判廷における被告にAの供述によれば同人が犯行の半ばB方を逃げだしたのは、Bの女房に騒がれたためか、B本人が抵抗したためか、或は同人が抵抗しなくなつたことから被告人が恐ろしくなつたためであるか、何れとも認め得られるのであるが、いずれにしても本件の場合が障碍未遂であつて中止未遂でないことは疑ない。そし…
あてはめ
本件において、被告人は「全家不在」という状況を利用して窃盗に着手している。しかし、作業中に「たまたま家人が外出先から帰ってきた」という事態が発生している。これは被告人の内心的原因による翻意ではなく、外界に生起した客観的原因であるといえる。したがって、被告人が犯行を断念したのは任意の中止とは認められず、外部的障害による未遂と評価される。
結論
本件は中止未遂には当たらず、障害未遂と認定される。
実務上の射程
中止犯における「任意性」の判断基準として、主観説的立場から「外界の事情に刺激されたか否か」を重視する基準を示したものである。答案上は、家人の帰宅や警察官の発見といった外部的事情が、一般に犯行継続を断念させるに足りる障害といえるかを検討する際の基礎となる判例である。
事件番号: 昭和25(れ)1756 / 裁判年月日: 昭和26年3月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強盗の目的で番人を脅迫したが、番人が非常ベルを鳴らして抵抗したために逃走した場合、自己の意思により犯罪を中止したとはいえず、刑法43条但書の中止未遂にはあたらない。 第1 事案の概要:被告人は他3名と共謀し、工場の倉庫から原料を強奪しようと計画した。被告人らは夜番室に侵入し、日本刀で夜警番人を脅迫…
事件番号: 昭和25(あ)564 / 裁判年月日: 昭和25年12月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】窃盗罪における実行の着手は、財物に対する他人の占有を侵すにつき密接な行為を開始した時点で認められる。他人のポケットに手を入れる行為は、金品を窃取する目的であれば占有侵害の危険性が高く、実行の着手に当たる。 第1 事案の概要:被告人が、他人のポケット内にある金品を窃取しようと考え、そのポケット内に手…