判旨
窃盗罪における実行の着手は、財物に対する他人の占有を侵すにつき密接な行為を開始した時点で認められる。他人のポケットに手を入れる行為は、金品を窃取する目的であれば占有侵害の危険性が高く、実行の着手に当たる。
問題の所在(論点)
窃盗罪(刑法235条)の実行の着手時期、特に「密接な行為」の成否が問題となる。
規範
実行の着手(刑法43条)は、構成要件的結果発生の具体的危険性を有する行為を開始したときに認められる。窃盗罪においては、財物に対する他人の事実上の支配を侵すにつき密接な程度に達する行為を開始したことをもって、実行の着手と解する。
重要事実
被告人が、他人のポケット内にある金品を窃取しようと考え、そのポケット内に手を差し入れた(判決文には大審院判例の引用という形で「ポケットに手を差入れた場合」への言及があるが、本件被告人の具体的行為態様については詳細な記述を欠くため、判決文からは不明)。
あてはめ
他人のポケット内の金品を狙い、実際にポケットに手を差し入れる行為は、その時点で財物に対する他人の事実上の支配(占有)を侵害する客観的な危険性が直接的に生じている。このような行為は、窃盗の構成要件に該当する結果を引き起こすにつき密接な程度に達していると評価できる。
結論
他人のポケットに手を差し入れた時点で窃盗罪の実行の着手が認められ、窃盗未遂罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、窃盗罪の着手時期について「密接行為説(客観的説)」を維持した大審院判例を肯定的に引用している。答案上は、スリの事案などにおいて、財物そのものに触れる前であっても、占有侵害の具体的危険が生じた時点(物色のための接触等)で着手を認める際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和31(あ)2101 / 裁判年月日: 昭和31年10月2日 / 結論: 棄却
電柱に架設中の電話線を切断しようとした以上、窃盗の実行に着手したものである。