ズボンの尻ポケツトから現金をすり取ろうとして手を差しのべその外側に触れた以上窃盗の実行に着手したものである。
窃盗の実行に着手したと認められる一事例
刑法235条,刑法243条
判旨
窃盗罪において、被害者のポケットから現金をすり取る目的で、当該ポケットに手を差し入れ、その外側に触れた時点で、実行の着手(刑法43条)が認められる。
問題の所在(論点)
窃盗罪における実行の着手時期、特にスリ行為においてポケットの外側に触れた段階で「実行に着手」(刑法43条前段)したといえるか。
規範
実行の着手は、構成要件的結果発生の現実的危険性が認められる行為を開始したときに認められる。窃盗罪においては、財物に対する他人の占有を排除し、自己又は第三者の占有に移転させるための密接な行為を開始したか否かで判断される。
重要事実
被告人は、被害者のズボンの右ポケット内にある現金をすり取ろうと考え、同ポケットに向けて手を差し伸べ、その外側に触れた。この段階で、窃盗の実行に着手したといえるかどうかが争点となった。
あてはめ
事件番号: 昭和25(あ)564 / 裁判年月日: 昭和25年12月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】窃盗罪における実行の着手は、財物に対する他人の占有を侵すにつき密接な行為を開始した時点で認められる。他人のポケットに手を入れる行為は、金品を窃取する目的であれば占有侵害の危険性が高く、実行の着手に当たる。 第1 事案の概要:被告人が、他人のポケット内にある金品を窃取しようと考え、そのポケット内に手…
被告人の目的はポケット内の現金を奪取することにあり、そのためにポケットへ手を差し伸べる行為は、現金の占有を侵害する客観的な危険性を有する。実際にポケットの外側に触れた以上、直ちに中身を抜き取ることを可能にする密接な段階に至っており、財物奪取の結果発生に向けた現実的危険性が認められる。
結論
被害者のズボンのポケットから現金をすり取ろうとして同ポケットに手を差し伸べ、その外側に触れた段階で、窃盗罪の実行の着手が認められる。
実務上の射程
本判決はスリ事案における実行の着手時期を明確にしたものである。答案上は、実行の着手の定義である「結果発生の現実的危険性」を論じた上で、財物との物理的接触の近接性(ポケットの外側への接触)を具体的根拠として、構成要件的行為への密接性を肯定する形で用いる。
事件番号: 昭和31(あ)2101 / 裁判年月日: 昭和31年10月2日 / 結論: 棄却
電柱に架設中の電話線を切断しようとした以上、窃盗の実行に着手したものである。
事件番号: 令和2(あ)1087 / 裁判年月日: 令和4年2月14日 / 結論: 棄却
被害者に電話をかけキャッシュカードを封筒に入れて保管することが必要でありこれから訪れる者が作業を行う旨信じさせ,被害者宅を訪れる被告人が封筒に割り印をするための印鑑を被害者に取りに行かせた隙にキャッシュカード入りの封筒と偽封筒とをすり替えてキャッシュカードを窃取するという犯行計画に基づいて,すり替えの隙を生じさせる前提…