一 原判決の認定するところによれば被告人等は共謀の上馬鈴薯その他食料品を窃取しようと企てA方養蠶室に侵入し懐中電燈を利用して食料品等を物色中警察官等に發見せられてその目的を遂げなかつたというのであつて、被告人等は窃盗の目的で他人の屋内に侵入し財物を物色したというのであるからこのとき既に窃盗の着手があつたとみるのは當然である。從つて如上判示の事實をもつて、住居侵入、窃盗未遂の罪にあたると判斷した原判決は正當である。 二 所論の匕首が、刄渡約一六糎餘あることは、原判決の確定するところであるから、この匕首が銃砲等所持禁止令第一條、同施行規則第一條に照し同令第一條にいう刀劍に該當することは疑ない。從つてかりに辯護人の主張するように、この匕首は左官職である被告人の職業用具であるとしても、左官職の職業用具であるというだけの理由では、同令第一條の除外例とならぬことは、同條において、特に狩獵を業とするものが、その業務の用に供するものについて地方長官の許可を受けた場合にのみ除外例をもうけ、他の業者の營業用具について、何ら規定するところのない法意から推してあきらかである。もとより、被告人が本件匕首の所持について、適法に地方長官の許可を受けたという事實は、辯護人も主張せず、原審も認定しないところである。原審が被告人の本件匕首の所持を、同令第一條違反の罪にあたると判斷したのは正當である。
一 窃盗罪の着手 二 左官が職業用具として使用していた匕首と銃砲等所持禁止令第一條
刑法43條,刑法235條,銃砲等所持禁止令1條,銃砲等所持禁止令施行規則1條
判旨
窃盗の目的で他人の住居に侵入し、懐中電灯を用いて財物を物色し始めた時点で、窃盗罪の実行の着手が認められる。たとえ目的物がその場に存在しなかったとしても、物色行為に及んでいる以上、窃盗未遂罪が成立する。
問題の所在(論点)
住居に侵入し財物を物色し始めた段階で、刑法43条前段の「実行に着手」したといえるか。
規範
窃盗罪の実行の着手は、窃盗の目的で他人の住居等に侵入し、財物を物色する行為を開始したときに認められる。この段階に至れば、財物に対する支配を侵害する現実的危険性が生じたといえるからである。
事件番号: 昭和25(あ)564 / 裁判年月日: 昭和25年12月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】窃盗罪における実行の着手は、財物に対する他人の占有を侵すにつき密接な行為を開始した時点で認められる。他人のポケットに手を入れる行為は、金品を窃取する目的であれば占有侵害の危険性が高く、実行の着手に当たる。 第1 事案の概要:被告人が、他人のポケット内にある金品を窃取しようと考え、そのポケット内に手…
重要事実
被告人らは共謀の上、馬鈴薯等の食料品を窃取しようと企て、夜間に被害者宅の養蚕室に侵入した。被告人らは室内で懐中電灯を利用して食料品等を物色していたところ、警戒中の警察官らに発見され、目的を遂げられなかった。弁護人は、被告人らの目的は「密造酒」の盗飲であり、対象物が特定されていた以上、その特定物に実力を及ぼすか、あるいはその場に特定物が存在しなければ不能犯であると主張して上告した。
あてはめ
被告人らは、窃盗の目的をもって他人の住居(養蚕室)という排他的な管理空間に侵入している。その上で、懐中電灯を用いて室内にある財物を具体的に探す「物色」行為に及んでいる。このような物色行為は、対象となる財物を発見し、自己の占有下に移す行為に直結する密接な行為であり、法益侵害の現実的危険性が認められる。たとえ弁護人が主張するように目的物が密造酒であり、それが室内に存在しなかったとしても、財物を物色したという事実がある以上、窃盗の着手があったと認めるのが相当である。
結論
被告人らの所為には窃盗罪の実行の着手が認められ、窃盗未遂罪(刑法243条、235条)および住居侵入罪(刑法130条)が成立する。
実務上の射程
本判決は「物色説」のリーディングケースであり、窃盗罪の着手時期を住居侵入時まで遡らせるのではなく、物色行為の開始時点に求めるものである。答案上は、住居侵入に加えて「物色」という具体的な加害行為への密接性を指摘する際の規範として活用できる。なお、目的物の不在についても不能犯とはせず未遂を肯定している点も重要である。
事件番号: 昭和23(れ)1425 / 裁判年月日: 昭和24年2月8日 / 結論: 棄却
被告人の控訴申立が理由あるものであつたことは所論のとおりである、而して此場合控訴申立後の未決勾留日數は舊刑訴第五五六條の規定に依り刑の執行の際當然本刑に通算されないものであつて、原審が判決で之が通算を言渡すべきものではない。
事件番号: 昭和39(あ)2131 / 裁判年月日: 昭和40年3月9日 / 結論: 棄却
犯人が被害者方店舗内において所携の懐中電燈により真暗な店内を照らし、電気器具類の積んであることが判つたが、なるべく金を盗りたいので店内煙草売場の方に行きかけた、との事実があれば、窃盗の着手行為があつたものと認めるのが相当である。