犯人が被害者方店舗内において所携の懐中電燈により真暗な店内を照らし、電気器具類の積んであることが判つたが、なるべく金を盗りたいので店内煙草売場の方に行きかけた、との事実があれば、窃盗の着手行為があつたものと認めるのが相当である。
窃盗の着手があつたものと認められた事例。
刑法235条,刑法43条
判旨
窃盗の目的で店舗内に侵入し、懐中電燈で照らして物色を開始した時点で、窃盗罪の実行の着手が認められる。したがって、その後に財物を手に取る前に発見された場合であっても、刑法238条にいう「窃盗」の犯人に該当する。
問題の所在(論点)
窃盗の目的で他人の店舗内に侵入し、懐中電燈で照らして金品を物色し始めたものの、いまだ特定の財物を手に取っていない段階において、窃盗罪の実行の着手(刑法43条)が認められるか。ひいては、事後強盗罪(刑法238条)の主体である「窃盗」にあたるか。
規範
実行の着手は、犯罪実現の現実的危険性を有する行為を開始したときに認められる。窃盗罪においては、財物の占有を移転させるに密接な行為、すなわち物色行為を開始した時点をもって実行の着手があったと解すべきである。
重要事実
被告人は、深夜に電気器具商の店舗内に窃盗の目的で侵入した。所持していた懐中電燈で暗い店内を照らし、積まれている電気器具類を確認したが、なるべく金銭を盗みたいと考え、店内の煙草売場の方へ向かおうとした。その際、被害者らが帰宅したため、財物を手にするには至らなかった。
あてはめ
被告人は、窃盗の目的で深夜の店舗という他人の排他的支配領域に侵入しており、懐中電燈で店内を照らして盗むべき対象を探索している。この物色行為は、財物の占有移転という結果発生に向けた直接的かつ現実的な危険を有する行為であるといえる。その後、金銭を求めて煙草売場へ移動しようとした事実に鑑みれば、既に窃盗の実行に着手したものと評価するのが相当である。
結論
被告人は窃盗の実行に着手しており、刑法238条の「窃盗」にあたる。したがって、事後強盗罪の主体性を認めた原判断は妥当である。
実務上の射程
窃盗罪の実行の着手時期に関し、「物色行為」を開始した時点を画記した重要な判例である。住居侵入を伴う窃盗において、財物そのものに接触していなくても着手が認められる範囲を明確にしている。答案上は、事後強盗罪の成否を論じる際の前提となる「窃盗」の意義(既遂のみならず未遂を含むこと)とセットで、着手時期の判断基準として引用すべきである。
事件番号: 昭和28(あ)5267 / 裁判年月日: 昭和29年5月6日 / 結論: 棄却
ズボンの尻ポケツトから現金をすり取ろうとして手を差しのべその外側に触れた以上窃盗の実行に着手したものである。
事件番号: 昭和27(れ)159 / 裁判年月日: 昭和27年9月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が当初は窃盗の主観で臨んだとしても、現場で発見されたことを機に暴行・脅迫を用いて強盗を遂行した場合は、強盗罪の成立を認めることができる。また、証拠説明において犯罪事実と対照して認定根拠が明白であれば、証拠挙示の手続に違法はない。 第1 事案の概要:被告人A、B、Cらは、当初、財物を盗む(窃盗…