刑法第六〇條は、二人以上共同して犯罪を實行した者を皆正犯とすることを明らかにした規定にすぎないのであるから、強盜罪の共同正犯については同條を適用しても結局刑法第二三六條第一項によつて所斷されることには變りがないのである。されば、原判決が刑法第六〇條の適用を遺脱した違法は判決に影響を及ぼさないことが明白であるからこれを上告の理由とすることはできない。
共同正犯につき刑法第六〇條を適用しなかつた判決と上告理由
刑法236條,刑法60條,刑訴法411條
判旨
共同正犯の成立が認められる場合であっても、判決において刑法60条の適用を遺脱したことは、結局のところ当該構成要件の罰条によって処断されることに変わりがないため、判決に影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
数人が共謀して犯罪を実行した事実を認定しながら、判決書において刑法60条を適用しなかった場合、その法令適用の遺脱は判決を取り消すべき違法となるか。
規範
刑法60条は、二人以上共同して犯罪を実行した者を皆正犯とすることを明かにした規定である。したがって、各共同正犯者は当該犯罪の構成要件を定める罰条によって処断されることになり、60条の適用掲記が欠けていても、結論として適用される罰条に差異が生じない限り、判決に影響を及ぼす違法とはならない。
重要事実
被告人は、共犯者らと共謀の上、被害者方で家人を脅迫して衣類等の金品を強取した。原判決は、この事実を強盗罪の共同正犯に当たるものと認定したが、法令の適用において刑法236条1項(強盗罪)を適用するにとどまり、刑法60条(共同正犯)の掲記を遺脱していた。
あてはめ
本件において、被告人が共犯者と共に強盗を遂行した事実は認定されており、その性質が共同正犯であることは明らかである。刑法60条を適用した場合であっても、科される刑罰は刑法236条1項によって定まるものである。そうであれば、判決書に刑法60条の記載が漏れていたとしても、被告人に対して適用される罰条の構成や刑の範囲に実質的な変更をもたらすものではない。したがって、この遺脱は判決に影響を及ぼさない明白な事項といえる。
結論
刑法60条の適用遺脱は判決に影響を及ぼさない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
判決書の「法令の適用」欄における形式的な不備が、実体法上の結論に影響しない場合の処理基準を示している。司法試験答案においては、共同正犯の成立要件(共謀、共謀に基づく実行)自体が議論の核心であり、本判例のような形式的掲記の要否が直接問われることは稀だが、共同正犯の本質が「各人が正犯として罰せられる」点にあることを理解する上での基礎知識となる。
事件番号: 昭和22(れ)203 / 裁判年月日: 昭和23年3月13日 / 結論: 棄却
二人共謀して強盗をした場合に、その一人は、自ら暴行、脅迫又は財物奪取の行爲をしなくても、他の共犯者がこれをした事實がある以上、共に強盗の正犯として責任を負うべきである。