一 原判決が本件公判請求書記載の事實を引用したのは、右書面を證拠として引用したのではなく、第一審の公判において裁判長が右書面を讀み聞けてした訊問に對する被告人の供述の趣旨を明かにするためであり、而も原判決は右の部分の外、被告人の供述を詳細に記載した第一審公判調書の他の部分をも引用しているので、原判決には所論のように採證についての違法はなく、趣旨は理由がない。 二 證人の供述の一部に誤りがあつても、その部分と關係のない事實を供述の他の部分で認定することは少しも差支えのないことである。原判決は所論Aの聽取書の外原判決に示したその他の證據をも引用して本件犯罪が原判示A方居宅内で行われた事實を認定したのであつて、犯行の場所として所論居室を判示したのではないから、假に右聽取書中の供述に所論のような誤りがあるとしても、理由齟齬の違法とはならない。
一 公判請求書と採證の方法 二 一部に誤ある聽取書と事實認定
刑訴336條,刑訴法360條1項,刑訴法336條,刑訴法410條19號
判旨
判決において公判請求書の記載内容を引用したとしても、それが被告人の供述内容を明確にするためのものであれば証拠能力のない書面を証拠とした違法はない。また、証拠の一部に事実誤認が含まれていても、他の証拠と総合して主要事実を認定できるのであれば、理由齟齬の違法は成立しない。
問題の所在(論点)
1. 公判請求書の記載内容を、被告人の供述の趣旨を明確にするために引用することは、証拠能力のない書面を実質的な証拠として用いた違法(採証法則違反)にあたるか。2. 供述証拠の一部に客観的実態と矛盾する点がある場合に、その証拠を引用して事実認定を行うことは、理由齟齬の違法にあたるか。
規範
1. 証拠能力のない書面(公判請求書等)の内容を判決に引用する場合であっても、それが被告人の公判供述の趣旨を明確にする目的であり、かつ他の適法な証拠と併せて事実認定を行っている場合には、採証法則に違反しない。2. 証拠として採用した供述の一部に客観的事実と異なる部分が含まれていたとしても、その部分を除外した他の供述部分や他の証拠に基づき、犯罪の成立に係る主要事実(犯行場所の特定等)を認定できるのであれば、判決に理由齟齬の違法は認められない。
事件番号: 昭和26(れ)1659 / 裁判年月日: 昭和26年11月6日 / 結論: 棄却
判決の証拠説明に架空の証拠を挙げていても、それが誤記であること明らかで全然存在しないものであるときは、事実認定の心証に影響を及ぼす筈なく、従つて判決にも影響を及ぼす虞は全然ないものであるから、判決破棄の理由にならない。
重要事実
被告人が強盗等の罪で起訴された事案において、原審は事実認定の証拠として、被告人が第一審公判で公判請求書の公訴事実を認めた際の「相違ない」との供述を引用した。また、被害者Aの司法警察官に対する聴取書を引用したが、そこには「七畳間」「十畳間」という記載があった。弁護人は、公判請求書という検察官の意思表示を実質的な証拠とした点、および検証調書上存在しない「七畳間」等での犯行を認定した点は、証拠によらない事実認定および理由齟齬にあたると主張して上告した。
あてはめ
1. 原判決が公判請求書の事実を引用したのは、証拠としてではなく、裁判長の訊問に対する被告人の「相違ない」という供述の趣旨・内容を明らかにするためである。加えて、原判決は公判調書中の他の詳細な被告人供述も併せて引用しているため、実質的に公判請求書自体を独立の証拠としたとはいえず、違法はない。2. 被害者の聴取書に実在しない部屋の名称が含まれていたとしても、証人の供述の一部に誤りがある場合に、その誤りと関係のない他の部分を用いて事実を認定することは許容される。原判決は他の証拠と総合して「被害者宅内」という犯行場所を認定しており、特定の居室を判示したわけではないため、理由齟齬の矛盾は生じない。
結論
原判決に採証の違法および理由齟齬の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
裁判所が事実認定の過程で、非証拠(公判請求書等)を「供述の前提や内容の明確化」のために言及することの許容性を示している。また、供述の一部に矛盾があっても、主要な事実認定に影響しない限り、自由心証の範囲内として容認される。実務上は、証拠の評価において「一部に誤りがあるからといって直ちに証拠全体を排除すべきではない」という論法で活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)1569 / 裁判年月日: 昭和26年10月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決が証拠として採用していない供述等と、認定された事実との間に矛盾があるとしても、判決の証拠取捨や事実認定の適法性を左右するものではない。 第1 事案の概要:強盗の事実を認定した原判決に対し、被告人は、ある関係者の供述調書や被告人の第一審公判での供述と認定事実が矛盾していると主張した。しかし、原判…
事件番号: 昭和23(れ)1501 / 裁判年月日: 昭和23年12月24日 / 結論: 棄却
一 公判請求書記載の事實と原判示事實との間に被害物品について多少の差異があるとしても、具體的な窃盜の犯行そのものには異同がないのであるから、原判決は審判の請求を受けない事件について判決し若しくはこれを受けた事件について判決しなかつた違法はない。 二 判決の認定事實における日時と公訴事實における日時とがたまたま異つていて…