一 公判請求書記載の事實と原判示事實との間に被害物品について多少の差異があるとしても、具體的な窃盜の犯行そのものには異同がないのであるから、原判決は審判の請求を受けない事件について判決し若しくはこれを受けた事件について判決しなかつた違法はない。 二 判決の認定事實における日時と公訴事實における日時とがたまたま異つていても事實の同一性を失わない場合もあり得るのであつて、事實の特定ということは日時のみによつて爲されるものではないから、これのみを以て、原判決が公訴事實と異なつた認定をした違法ありと云うことはできない。
一 公判請求書記載事實と判示事實との間に多少の差異ある場合と上告理由 二 判決の認定事實の日時と公訴事實の日時とが異る場合と上告理由
刑訴法410條18號
判旨
判決における認定事実が、日時や被害物品の数量において公訴事実と多少異なる場合であっても、具体的な犯行そのものにおいて異同がないのであれば、事実の同一性は失われず、審判の請求を受けない事件について判決した違法はない。
問題の所在(論点)
判決において公訴事実と異なる日時や被害品を認定することが、事実の同一性の範囲を逸脱し、不告不理の原則に抵触するか(審判の対象となる事実の特定と範囲)。
規範
公訴事実と認定事実との間に不一致がある場合であっても、日時の相違や被害物品の多少の差異が、具体的な犯行そのものの異同を来さない程度のものであれば、事実の同一性は失われない。したがって、裁判所が証拠に基づき修正して認定することは適法であり、不告不理の原則(刑事訴訟法378条3号参照)には反しない。
重要事実
被告人が窃盗罪で起訴された事案において、公訴状には「午前零時頃、現金7100円、地下足袋25足、他数十点を強奪した」と記載されていた。これに対し、第一審判決(原判決)は、犯行時刻を「午後零時頃」と記載し、被害物品を「地下足袋20数点及びその他の雑品数十点」と認定した。被告人側は、認定された日時や被害品が公訴事実と異なるため、審判の請求を受けていない事実を認定した違法があると主張して上告した。
あてはめ
まず、日時の記載については、前後の文脈や証拠から「午前」を「午後」とした単純な誤記であることが明白であり、これをもって事実が異なるとはいえない。次に、被害物品について、公訴状の「現金7100円、地下足袋25足」に対し、判決が「地下足袋20数点」等と認定した点については、数量等に多少の差異は認められる。しかし、その他の点において両者の間に相違はなく、窃盗という具体的な犯行そのものの同一性に影響を及ぼすものではない。したがって、事実の同一性は維持されていると評価される。
結論
本件判決が公訴事実と一部異なる事実を認定したことは、事実の同一性の範囲内であり、適法である。上告棄却。
実務上の射程
訴因変更の要否の文脈における「事実の同一性」の判断において、日時や目的物の軽微な相違は同一性を損なわないことを示す事例。答案上は、被告人の防御に実質的な不利益を与えない範囲での事実認定の修正を許容する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和24(れ)2146 / 裁判年月日: 昭和24年12月26日 / 結論: 棄却
原判決中の「その證據は原判決に摘示するところとすべて同一であるからこゝにこれを引用する」という語句は、稍々正確を欠く憾みがないではない。しかしそれは、本來ならば第一審判決に摘示した通りの證據を舉示すべきであるのを、そのことを省略してそれに代えたものであること明かである。従つて原判決にも、第一審判決に摘示されたと同様の證…
事件番号: 昭和25(れ)530 / 裁判年月日: 昭和25年7月18日 / 結論: 棄却
被告人が第一、二審を通じて司法警察官に對してした自白は拷問強制によるものなりと強調し、その取調の状況を相當具体的に述べていても、他方公判廷において證人として取調べられた警察官らがさような事實がなかつたことを確信して居り被告人の右自白が全然強制によるものとも記録上認め難い場合においては、強制自白を證據とした違法ありとの上…
事件番号: 昭和26(れ)1659 / 裁判年月日: 昭和26年11月6日 / 結論: 棄却
判決の証拠説明に架空の証拠を挙げていても、それが誤記であること明らかで全然存在しないものであるときは、事実認定の心証に影響を及ぼす筈なく、従つて判決にも影響を及ぼす虞は全然ないものであるから、判決破棄の理由にならない。