判決の証拠説明に架空の証拠を挙げていても、それが誤記であること明らかで全然存在しないものであるときは、事実認定の心証に影響を及ぼす筈なく、従つて判決にも影響を及ぼす虞は全然ないものであるから、判決破棄の理由にならない。
虚無の証拠が挙示されていても判決破棄の事由とならない一事例
判旨
判決に架空の証拠が記載されるなどの証拠説明の瑕疵があっても、それが判決に影響を及ぼさないことが明らかであれば破棄理由とはならない。また、捜査段階での供述が強制されたものであっても、公判廷での供述が任意になされたと認められる限り、当該供述を証拠とすることに違法はない。
問題の所在(論点)
判決における証拠の誤記(架空の証拠の引用)が判決を破棄すべき違法(理由不備・理由齟齬)にあたるか。また、捜査段階での強制の主張がある場合に、公判廷での供述の任意性をどう判断すべきか。
規範
証拠説明に誤りがある等の瑕疵がある場合であっても、それが判決の結論に影響を及ぼす虞がないときには、当該瑕疵を理由として判決を破棄することは要しない。また、警察官等の捜査機関に対する供述において強制の疑いがある等の事情があったとしても、公判廷における供述の任意性が肯定される限り、これを有罪の証拠とすることができる。
重要事実
第一審及び原審において、被告人らが強盗傷人等の罪に問われた。原判決は、証拠として「第一審における相被告人」の供述を挙げていたが、実際にはその人物は第一審の相被告人ではなく原審の証人に過ぎなかった。また、被告人らは、警察官の取調べにおいて強制的に自白させられたものであり、公判廷における供述もその影響下にあるとして自白の任意性を争い、上告した。
あてはめ
原判決が、一審相被告人ではない人物を一審第一回公判調書中の供述として証拠に挙げた点は、証拠説明に瑕疵がある。しかし、当該人物は原審で証人として供述しており、裁判所が人物の属性を誤解して氏名を混入させたに過ぎず、判決の結論に影響を及ぼす虞はない。また、自白の強制については、警察官聴取書はそもそも証拠として採用されておらず、公判廷における被告人らの供述が強制によるものと認めるべき証跡も見当たらないため、証拠能力に問題はない。
事件番号: 昭和26(れ)1569 / 裁判年月日: 昭和26年10月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決が証拠として採用していない供述等と、認定された事実との間に矛盾があるとしても、判決の証拠取捨や事実認定の適法性を左右するものではない。 第1 事案の概要:強盗の事実を認定した原判決に対し、被告人は、ある関係者の供述調書や被告人の第一審公判での供述と認定事実が矛盾していると主張した。しかし、原判…
結論
本件各上告を棄却する。原判決の証拠説明の瑕疵は判決に影響を及ぼさないため破棄理由にならず、公判廷での供述の任意性も否定されない。
実務上の射程
判決書における軽微な事実誤認や証拠の誤記があったとしても、それが実質的に結論を左右しない場合には破棄理由とならないという「判決に影響を及ぼすべき違法」の判断枠組みを示している。答案上は、訴訟手続の法令違反を論じる際の相対的控訴事由(刑訴法379条)の解釈において、結論への影響度を論証する材料となる。
事件番号: 昭和26(れ)733 / 裁判年月日: 昭和26年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判調書において被告人が前回の公判調書記載の犯罪事実と同趣旨の供述をした旨が記載されている場合、当該証拠に基づき事実を認定することは適法であり、証拠によらずに事実を認定した違法はない。 第1 事案の概要:被告人らの刑事事件において、原審の第9回公判調書には「裁判長は被告人等に対し、右第5回・第6回…
事件番号: 昭和26(れ)1716 / 裁判年月日: 昭和26年11月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の補強証拠は犯罪の客観的事実について存在すれば足り、犯人と犯罪の結びつきまで証明する必要はない。また、不当に長い拘禁後の自白であっても、拘禁と自白との間に因果関係がない場合には証拠能力が認められる。 第1 事案の概要:被告人は、昭和21年に勾留された後、執行停止中の逃走、別罪の犯行、再度の逮捕…