一 (被告人の性格、犯行の情状より見て、刑の執行猶豫の恩典を賜はるべきである、との上告論旨に對し)日本國憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に關する法律第一三條によれば、刑事訴訟法第四百一二條の規定は、憲法施行の日からこれを適用しないこととなつたのであるから、所論のような事由は、これを上告の理由とすることが出來ないので本論旨は理由がない。 二 原判決は被告人がA方居宅に侵入した事實を判示しながら刑法第一三〇條の適用を遺脱したことは所論の通りであつて、この點において原判決には違法があるが、住居を侵す罪は窃盜罪の手段たる關係にあるので、其の處断は重い後者の刑によるべきことは、刑法第五四條第一項により明かであるから原判決が刑法第二三五條だけを適用して處断したとしても、刑の量定その他に異なるところがないから、右の違法は原判決に影響を及ぼさないので上告の理由とはならない。 三 (原審の公判調書に、「各訊問調書各聽取書檢證調書各始末書及強盜難届書公判調書其の他の書類の各要旨を告げ又は讀聞け」と記載してあることは、其の記載方法餘り簡略に過ぎ違法である、との上告論旨に對し) 公判調書に記載すべき證據調の表示としては、原審公判調書に記載した程度で足りるのであつて、その點に違法はないから、論旨は理由がない。
一 刑の量定と刑訴應急措置法第一三條 二 窃盜の手段としての住居侵入 三 公判調書に記載すべき證據調の表示の程度
刑訴應急措置法13條2項,刑法25條,刑法235條,刑法130條,刑法54條1項,刑訴法300條1項,刑訴法411條,刑訴法60條
判旨
判決が犯罪事実として認定した住居侵入の事実に法令を適用しなかった遺脱がある場合でも、それが窃盗罪の手段であり牽連犯として重い窃盗罪の刑で処断される関係にあるときは、量刑に影響を及ぼさないため、判決に影響を及ぼすべき法令違反には当たらない。
問題の所在(論点)
判決において住居侵入の事実を認定しながら住居侵入罪の適用を遺脱した場合、その違法は判決に影響を及ぼすものとして破棄事由となるか。
規範
判決に法令適用の遺脱という違法がある場合であっても、その違法が判決の結果(刑の量定等)に影響を及ぼさないと認められるときは、上告理由とはならない。具体的には、適用を遺脱した罪が他の認定された罪の手段となる関係(刑法54条1項の牽連犯)にあり、より重い罪の刑で処断されるべき場合には、その遺脱は判決に影響を及ぼさない。
重要事実
被告人は、共犯者らと共謀の上、被害者A方の居宅に侵入し、ラジオやミシン等の家財道具を窃取した。原判決は、事実認定において「A方に押し入り」と住居侵入の事実を明記しながら、法令の適用において住居侵入罪(刑法130条)の条文を掲記せず、窃盗罪(刑法235条)のみを適用して処断した。弁護人は、この法令適用の遺脱が理由不備の違法にあたるとして上告した。
あてはめ
本件において、被告人がA方居宅に侵入した事実は判決文に記載されており、これに刑法130条を適用しなかった原判決に違法があることは否定できない。しかし、住居を侵す罪(住居侵入罪)は窃盗罪の手段たる関係にあり、両者は牽連犯となる。この場合、刑法54条1項により、処断刑は最も重い罪である窃盗罪の刑によるべきである。したがって、原判決が窃盗罪のみを適用して刑を量定したとしても、結果として刑の重さに差異は生じない。ゆえに、右の違法は判決に影響を及ぼさないと解される。
結論
原判決に住居侵入罪の適用遺脱という違法はあるが、刑の量定等に影響を及ぼさないため、破棄事由には当たらない。
実務上の射程
法令適用の誤りがあっても、牽連犯や吸収関係等の理由で結論(処断刑)に影響がない場合は上告・控訴理由とならないという「判決に影響を及ぼすべき法令違反」の解釈を示す。刑事訴訟実務における理由不備の主張に対する反論として有用である。
事件番号: 昭和32(あ)1244 / 裁判年月日: 昭和36年9月15日 / 結論: 破棄差戻
被告人は昭和二八年八月二六日午後一〇時頃、甲方が挙家不在中に乗じ、同家屋内に侵入し、同人所有の衣類五点を窃盗した旨および被告人が前同日午後一〇時頃、右甲方において、同家に放火して窃盗の犯行を蔽わんと決意し、同家奥六畳間の押入れ上段の布団の間に、マツチで点火した煙草二本を一列に並べておき、その上に薄紙三、四〇枚を被せて放…