判旨
判決の証拠の一部に証拠能力を欠くなどの違法があっても、その他の適法な証拠によって犯罪事実を十分に認定できる場合には、その違法は判決に影響を及ぼさない。自白の任意性に関する証拠の取捨選択は、経験則に反しない限り原審の専権に属する。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法において、判決に引用された証拠の一部に違法がある場合、直ちに「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」として破棄事由となるか。また、自白の任意性や間接証拠の評価に関する事実認定の不服が適法な上告理由となるか。
規範
判決に引用された証拠の一部に採証上の違法がある場合でも、当該証拠を除外した残りの適法な証拠のみによって犯罪事実の認定が十分に可能であると認められるときは、刑事訴訟法上の「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」には当たらない。また、自白の任意性や事実認定に係る証拠の評価は、論理則・経験則に反しない限り、事実審裁判所の専権に属する。
重要事実
被告人が刑事事件において上告した事案。第一審判決は、被告人の検察官に対する弁解録取書を証拠として採用したが、原審(控訴審)は、当該録取書が何ら犯罪事実を告知した上で作成されたものか不明であり、証拠能力に欠ける違法があるとした。しかし、原審は、当該証拠を除外しても他の証拠により犯罪事実は十分に認められるとして、第一審判決を維持した。これに対し、被告人側は、違法な証拠の採用が判決に影響を及ぼすこと、および警察での自白には任意性がなく証拠の取捨選択に経験則違反があることを理由に上告した。
あてはめ
原審が示したとおり、違法な検察官面前の弁解録取書を除外したとしても、他に引用されている証拠群によって、判示された犯罪事実は十分に認定可能である。この場合、一部の証拠採用に違法があっても、結論としての有罪認定を左右するものではないため、実質的に判決に影響を及ぼしたとはいえない。また、警察における自白が任意でないとする主張や、現場の足跡・遺留品に関する証拠評価の不当性は、いずれも事実審の専権に属する証拠の取捨選択を非難するものに過ぎず、経験則違反の具体的な論証を欠くため、適法な上告理由とは認められない。
結論
本件上告を棄却する。証拠の一部に違法があっても、他の証拠で事実認定が可能であれば判決に影響はなく、事実認定に関する主張は適法な上告理由とならない。
実務上の射程
刑事訴訟における「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」の判断枠組みを示す。証拠能力のない証拠が採用された場合でも、可分な他の証拠で認定が維持できれば破棄を免れるという「実質的な判決への影響」を重視する実務運用を裏付けるものである。答案上は、証拠能力の欠如を指摘した後の救済法理として、認定への影響の有無を検討する際に活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)1867 / 裁判年月日: 昭和26年3月9日 / 結論: 棄却
窃盗犯人が被告人であることの証拠は被告人の自白だけであつても、被害者の始末書に窃盗被害の日時及び被害物件等について被告人の自白にかかる事実を裏書するに足りる記載がある以上、右自白と始末書の記載を綜合して被告人に窃盗の罪を認めても違憲違法ではない。