被告人は昭和二八年八月二六日午後一〇時頃、甲方が挙家不在中に乗じ、同家屋内に侵入し、同人所有の衣類五点を窃盗した旨および被告人が前同日午後一〇時頃、右甲方において、同家に放火して窃盗の犯行を蔽わんと決意し、同家奥六畳間の押入れ上段の布団の間に、マツチで点火した煙草二本を一列に並べておき、その上に薄紙三、四〇枚を被せて放火し、現に人の住居に使用する木造柾葺平家建一棟とこれに隣接する小学校々舎のうち一教室を焼燬した旨の両事実について、前示窃盗の所為は放火の所為のほとんど直前に行われたものであり、同一犯人の所為ではないかと見得る公算が多いにもかかわらず、右窃盗および放火の行われた現場に遺留されていた糞便は被告人のものではないことがあきらかであると認定し、被告人に対し右放火の事実について無罪の言渡をしながら、何ら特段の事由を示すことなく、右窃盗の事実について有罪の認定をした判決は、事実誤認もしくは理由不備の違法があり、刑訴第四一一条により破棄を免れない。
刑訴法第四一一条にあたる事例。
刑訴法411条
判旨
窃盗と放火が時間的・場所的に近接し、同一犯人の所為である公算が極めて大きい事案において、現場遺留品が被告人のものでないと判断して放火を無罪とする一方で、特段の事情を示さず窃盗のみを有罪とすることは、理由不備または事実誤認の違法がある。
問題の所在(論点)
時間的・場所的に密接した窃盗と放火の事実において、現場遺留品(糞便)が被告人のものではないという有力な無罪の証拠がある場合、その証拠と矛盾する形で一部の犯罪(窃盗)のみを有罪と認定することは、事実誤認または理由不備の違法を構成するか。
規範
事実認定における合理的な疑いの有無を判断する際、一連の密接に関連する犯行について、共通する重要証拠の評価が一方の事実認定を否定する(無罪)根拠となる場合には、他方の事実認定(有罪)においてもその証拠の影響を合理的に排斥できなければならない。これを怠り、矛盾する認定を維持することは、刑事訴訟法411条等の理由不備または事実誤認に該当する。
重要事実
被告人は、被害者宅から衣類を窃取し、その犯行を隠蔽するために同宅に放火したとして起訴された。原審は、放火現場に残されていた糞便の鑑定結果から、それが被告人のものではないと認定し、自白の信用性を否定して放火罪については無罪とした。しかし、窃盗についても放火の直前に行われ、同一犯人によるものとみる公算が極めて大きい状況であったにもかかわらず、原審は特段の理由を示すことなく窃盗罪のみを有罪として認定した。
あてはめ
本件では、窃盗の所為は放火のわずか50分ほど前に行われており、起訴状も窃盗犯人が隠蔽のために放火したとしている通り、両者は同一犯人の所為である公算が非常に高い。原審は、放火現場の糞便が被告人のものではないことを理由に放火を無罪としたが、この糞便の存在は、その場にいた犯人が被告人ではないことを強く示唆するものである。そうであるならば、同一犯人の所為と推認される窃盗についても、被告人が犯人であるとの認定に重大な疑義が生じるはずである。にもかかわらず、原審が特段の事情を説示せずに窃盗を有罪とした点は、論理的一貫性を欠き、認定の合理性を欠いている。
結論
原判決には事実誤認または理由不備の違法があり、これを破棄しなければ著しく正義に反する。したがって、原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
共犯関係や近接した余罪の認定において、証拠の評価が矛盾する場合の「認定の合理性」を争う際に用いる。特に、現場遺留品などの客観的証拠が特定の事実を否定する際、その影響が及ぶ範囲(関連事実)の認定を争う局面で有用である。
事件番号: 昭和24(れ)28 / 裁判年月日: 昭和24年5月31日 / 結論: 棄却
論旨は、原審は本件の併合罪につき法定の加重をするに當り、窃盜罪と強盜未遂罪との刑の輕重の比較において窃盜罪を重しとしてその刑に法定の加重をしているが、それは違法であるというのである。しかし、同時に刑を加重減輕すべきときには、併合罪の加重は、先だつて法律上の減輕をしなければならないことは、刑法第七二條の規定するところであ…