公判期日に提出せられた證拠書類は其の全てに亘り證拠調をなし其の旨を公判調書に記載しなければならぬものでないから、公判調書に記載がないからと云つて、公判期日に提出せられたものでないとの反證は成立たない。
公判調書に記載のない證拠書類
刑訴法64條,刑訴法342條
判旨
公判調書に証拠提出の記載がない場合でも、提出日が公判期日当日であれば、特段の事情がない限り、本来の目的を達するために公判廷で提出されたものと推認され、公判期日前提出を前提とする不服申立ては認められない。
問題の所在(論点)
証拠書類の提出が公判期日当日になされたが公判調書に記載がない場合、その提出は「公判期日前」になされたものとみなされ、裁判所に証拠調べの義務が生じるのか。
規範
1. 証拠書類の提出時刻と公判開始時刻の前後の関係が不明な場合、特段の反対の証拠が認められない限り、公判期日当日になされた提出は、その本来の目的(公判廷での審理)を遂げるために公判廷においてなされたものと認めるのが相当である。2. 公判調書は公判手続が適法に履践されたことを証明する(旧刑訴法64条、現刑訴法48条等参照)ものであるが、提出された証拠の全てにつき記載を要するものではないため、公判調書に記載がないことをもって、直ちに公判期日外の提出であるとの反証にはならない。
重要事実
被告人の弁護人が、犯罪事実の成否に関する第三者間の書簡を証拠書類として原審裁判所に提出した。記録上、提出日は原審第1回公判期日と同じ昭和22年5月12日とされていたが、具体的な提出時刻や、公判開始前後の別は不明であった。また、公判調書には当該書簡の提出や証拠調べに関する記載がなかった。上告人は、調書に記載がない以上、提出は公判期日前になされたものであり、これを取り調べなかった原審には旧刑訴法342条違反(現305条等参照)の違法があると主張した。
あてはめ
本件書簡は、公判期日と同じ日に提出されており、提出時刻と公判開始時刻の関係を示す資料はない。しかし、証拠書類の提出は、公判廷において提出されてこそ本来の目的を遂げ得るものであるから、特段の事情がない限り、公判廷においてなされたものと解するのが相当である。また、公判調書は適法な手続の証明力を有するが、提出された全証拠を網羅的に記載すべき義務はなく、記載の欠如をもって「公判期日外での提出」と断定する根拠にはならない。したがって、公判期日前に提出されたことを前提とする論旨は失当である。
結論
本件証拠書類は公判廷で提出されたものと認められ、公判調書の記載欠如のみをもって公判期日前の提出と断定することはできないため、原審の証拠調べ手続に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
公判期日に提出された証拠の取り扱いに関する推認規定を示したものである。答案上では、公判調書の証明力の限界(記載がない=事実がない、とは必ずしも言えないこと)や、証拠提出の法的性質・目的から提出場所を事実認定する際の論理として活用できる。現行法下でも公判調書の記載(刑訴法48条、52条)の解釈において参照しうる。
事件番号: 昭和22(れ)221 / 裁判年月日: 昭和23年3月9日 / 結論: 棄却
刑事訴訟法第四一〇條第一三號に法律の規定により公判廷において取調ぶべき證據の取調を爲さざりしときとあるのは、同法第三四二條の如く、特に法律の明文を以て公判廷において取調ぶべきことを規定した場合に取調をなさなかつたときを指すものであつて、裁判所が必要と認めない押收證據物について決定の證據調をしない場合の如きはこれに該當し…