證據調の範圍並びにその限度は事實審裁判所の専權に屬する。
證據調の範圍並びにその限度と上告理由
刑訴法338條1項,刑訴法344條1項,刑訴法344條2項,刑訴法345條1項
判旨
強要された行為であっても、意思決定の自由を完全に喪失した状態で実行されたと認められない限り、刑法39条による責任能力の欠如または減退を認めることはできない。被告人が凶器による脅迫を受けて犯罪を継続した場合でも、その実行行為が自己の意思に基づくものである限り、刑事責任を免れない。
問題の所在(論点)
他人から生命に対する危害の脅迫を受け、拒絶しがたい状況下で犯罪を実行した場合、刑法39条の「心神喪失」または「心神耗弱」として責任が否定または軽減されるか。
規範
刑法39条が規定する心神喪失または心神耗弱とは、精神の障害により事物の理非善悪を弁別する能力、またはその弁別に従って行動する能力が欠如・減退している状態を指す。他人からの強要(強迫)があった場合でも、その行為が直ちに「意思の自由を喪失した状態」を意味するものではなく、実行行為時の具体的な精神状態に照らして責任能力の有無を判断すべきである。
重要事実
被告人D、E、Fの3名は、主犯A(精神分裂病の既往があり心神耗弱と認定)と共に当初は鶏を盗む目的で被害者宅付近に赴いたが、途中でAから強盗を強要された。被告人らは一度は逃げ出そうとしたが、Aが抜身の日本刀を振り回し「やらなければ斬り殺す」と脅迫したため、Aの指図に従って被害者宅に押し入り、現金を強取した。弁護人は、被告人らが極度の脅迫により意思の自由を喪失していたため、刑法39条を適用し無罪または減軽すべきであると主張した。
あてはめ
原判決は、被告人らがAの強要に基づいて強盗を共謀・実行した事実は認めている。しかし、被告人らが強盗の実行行為に及ぶ際、精神障害等により「意思の自由を喪失した状態」であったことを示す具体的な事実は認められない。被告人らはAの脅迫を回避するために行動を選択しており、その実行行為自体が全くの機械的動作であったり、是非善悪の判断能力を失っていたりしたとはいえない。したがって、意思の自由を喪失した状態での犯行とは認定できず、刑法39条を適用しない判断に違法はない。
結論
被告人らの実行行為が意思の自由を喪失した状態で行われたとは認められないため、刑法39条の適用を否定した原判決は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
期待可能性の議論が未成熟だった時代の判決であるが、現代の答案構成においても、強要された行為について「心神喪失」を主張することは極めて困難であり、むしろ「期待可能性の欠如」という超法規的責任阻却事由の存否として論じるべきであることを示唆する資料となる。責任能力の文脈では、外部的圧迫のみでは足りず、あくまで精神障害の存在が不可欠であるという原則を確認する際に引用できる。
事件番号: 昭和22(れ)42 / 裁判年月日: 昭和22年11月29日 / 結論: 棄却
一個の強迫行爲によつて數人の者からその所持金を奪つた行爲は刑法第五四條第一項前段にいう「一個ノ行爲ニシテ數個ノ罪名ニ觸レ」にあたるものである。
事件番号: 昭和22(れ)41 / 裁判年月日: 昭和22年11月24日 / 結論: 棄却
一 深夜數人兇器を携えて屋内に侵入して判示のような脅迫行爲をしたときは、通常被害者において反抗を抑壓せられる程度の畏怖を感ずることは明瞭であるから、原判決がその行爲を(恐喝ではなく)強盜と認定して之に對し強盜の法條を適用したのは正當であつて何等の違法はない。 二 所論の被害物件が隠退蔵物資なりやは被告人の本件犯行(強盜…