所論後段は、原審が被告人に對する科刑につき、法律上の減軽及び酌量減軽をせず、刑の執行猶豫をしなかつたことを目して法令に違反すると主張するのであるが、原判決の認定した事實によれば、法律上の減軽事由はなく、酌量減軽をするかしないかは原審の自由裁量に屬することであるから、これらの減軽をしなかつた點に就て違法はない。したがつて、本件は刑の執行を猶豫することができる場合に當らないことは刑法第二五條により明かであるから、原審が刑の執行猶豫をしなかつたのは當然で、この點についても違法はなく、論旨後段も理由がない。
事實審裁判所の専權範圍としての酌量減刑と刑の執行猶豫
刑法25條
判旨
他人から生命等の身体への脅迫を受けて犯罪行為に及んだ場合であっても、意思の自由を完全に喪失するに至らない限り、期待可能性の欠如による責任阻却は認められない。また、酌量減軽や執行猶予を付すか否かは裁判所の合理的な裁量に委ねられる。
問題の所在(論点)
他者の脅迫によって犯行を決意し実行した場合、期待可能性の欠如により責任が阻却され、無罪となるか。また、かかる事情がある場合に、酌量減軽や執行猶予をしないことが法令違反となるか。
規範
被告人が他者の強制・脅迫により意思の自由を制限された状態で犯行に及んだ場合であっても、直ちに責任が阻却されるわけではない。刑法上の責任を免れるには、その強制が意思の自由を完全に喪失させる程度(道具として利用される状態)に至っている必要がある。また、酌量減軽(刑法66条)や執行猶予(25条)の適用については、裁判所の裁量事項である。
重要事実
被告人は共犯者Bから「荷物運びを手伝ってくれ」と誘われ現場に赴いたが、到着後にBからピストルを突きつけられ、強盗への加担を迫られた。被告人は当初拒絶したが、Bに胸倉を掴まれ銃で脅されたため、やむなく指示に従いアパートの一室に侵入して強盗を敢行した。弁護人は、被告人がBに機械的に利用された「間接正犯」的な状況にあり、責任が阻却され無罪となるべきであると主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人はBからピストルを突きつけられるという強い脅迫を受けてはいるものの、最終的には自ら「犯意を決意」して犯行に及んでいる。これは意思の自由を完全に奪われた機械的な動作とはいえず、自己の判断で行動を選択した以上、責任を阻却すべき事情(法律上の減軽・免除事由)には当たらない。また、原審が諸般の事情を考慮した上で酌量減軽や執行猶予を選択しなかったことは、裁判所の裁量の範囲内であり適法である。
結論
被告人の行為について責任阻却は認められず、有罪とした原判決に法令違反はない。上告棄却。
実務上の射程
期待可能性の議論における「強制された行為」の限界を示す。実務上、生命の危険を伴う脅迫下であっても、それが「意思の自由を完全に奪う」ものでない限り、直ちに無罪とはならず、量刑上の考慮事項(酌量減軽等)に留まることを示唆している。答案では、期待可能性の存否を検討する際の「具体的基準」として、本判例を参考に強制の程度を評価することになる。
事件番号: 昭和23(れ)1114 / 裁判年月日: 昭和23年12月24日 / 結論: 棄却
一 記録によれば、被告人の辯護人は原審の公判廷において、被告人の精神状態を明らかにするために精神鑑定その他の證據調の請求をしたことは認められるが、それだけでは被告人が本件犯行當事に心神喪失者若しくは心神耗弱者等であつたことの事實上の主張がなされたものとは言うことができない。 二 裁判所法第二六條第一項は違憲でない。(昭…