一 記録によれば、被告人の辯護人は原審の公判廷において、被告人の精神状態を明らかにするために精神鑑定その他の證據調の請求をしたことは認められるが、それだけでは被告人が本件犯行當事に心神喪失者若しくは心神耗弱者等であつたことの事實上の主張がなされたものとは言うことができない。 二 裁判所法第二六條第一項は違憲でない。(昭和年二二(れ)第二八〇號昭和二三年七月二九日大法廷判決參照) 三 精神病者であつても症状によりその精神状態は時に普通人と異ならない場合もあるのであるから、その際における證言を採用することは採證法則に反するものではなく、要は事實審の自由な判斷によつてその採否を決すべきものである。 四 刑事訴訟法第三四七條第一項において裁判長は各個の證據につき取調を終えた毎に被告人に意見の有無を問うべきことを規定しているのは被告人に證據について意見を述べる機會を與えなければならないことを規定したのであつて、被告人が意見を有しない事でも強て之れを述べさせなければならないことまで規定したものではない。 五 強盗犯人が被害者を脅迫しその犯行を抑圧中に財物を奪取すれば、その奪取行為がたまたま被害者の気付かない間になされたものであつても、強盗罪が成立する。 六 刑訴応急措置法第八条第二号いわゆる緊急逮捕の手続は、強制捜査手続であるから、司法警察官は、被疑者に対し訊問権を有する。 七 證據書類中の被害金額三千九百八十圓となつているのを、被害金額三千二百圓と判示したのは、虚無の證據を引用したものではない。 八 刑訴應急措置法第一三條第二項の規定が日本國憲法の條規に反するものでないことは當裁判所の判例とするところであつて、未だこれを變更する必要を認めない。
一 精神鑑定の請求と精神障碍の事實上の主張 二 裁判所法第二六條第一項の合憲性 三 精神病者の證言の證據能力 四 刑訴法第三四七條第一項の法意 五 被害者不知の間になされた財物の奪取と強盗罪 六 緊急逮捕手続と司法警察官の被害者に対する訊問権 七 證據書類中の被害金額の限度内でこれと異る被害金額を認定した場合と虚無の證據 八 刑訴應急措置法第一三條第二項の合憲性
刑訴法360條2項,刑訴法337條,刑訴法347條1項,刑訴法336條,憲法11條,裁判所法26條1項,刑法236条,刑訴応急措置法8条2号
判旨
犯人が屋内に侵入してピストル等で家人を脅迫した場合、犯人が屋外に退去するまで畏怖による反抗抑圧状態は継続するため、その間の財物奪取は強盗罪を構成する。また、強盗の共同正犯において、個々の財物奪取の事実を共犯者の一方が具体的に認識していなくとも、共同の責任を負う。
問題の所在(論点)
1. 屋内での脅迫後、退去までの間の財物奪取が強盗罪にあたるか。2. 強盗の共同正犯において、一部の共犯者が特定の財物奪取の事実を認識していない場合でも、その財物について共犯責任を負うか。
事件番号: 昭和23(れ)1205 / 裁判年月日: 昭和23年12月16日 / 結論: 棄却
一 被告人は相被告人と共謀して強取行爲をも分擔したものというべく、從つて、假りに所論のごとく被告人は相被告人の兇器所持並びに兇器使用の事實を知らなかつたとしても原判決が證據によらずして強盜共謀の事實を認定した違法ありといえない。 二 犯罪の日時は、法律上別段の定め(例えば日出前又は夜間においてというごとき)のない限り、…
規範
強盗罪(刑法236条)における「暴行又は脅迫」による反抗抑圧状態は、犯人が屋内に侵入して脅迫を開始した場合、屋外に退去するまで継続するものと解される。また、強盗の共同正犯(刑法60条)が成立する場合、共同実行の意思と事実がある以上、個別の財物奪取の詳細な態様や事実を全共犯者が具体的に認識している必要はなく、共同してその責任を負う。
重要事実
被告人A、B、Cは共謀の上、屋内に侵入し、家人に対しピストル等を突きつけて脅迫した。その際、被告人Aが懐中時計を奪取したが、被告人Bはこの具体的な奪取の事実を認識していなかった。弁護人は、Aの奪取状況から窃盗にとどまること、およびBに時計奪取の共犯責任は及ばないことを主張して上告した。
あてはめ
1. 被告人らが屋内に侵入してピストルで脅迫した以上、家人は犯人が退去するまで継続的に畏怖を感じ、反抗を抑圧されているといえる。したがって、その間の財物奪取は窃盗ではなく、強盗罪の構成要件を充足する。2. 本件は共同して強盗を遂行した事案である。被告人BがAによる個別の時計奪取の事実を具体的に知らなかったとしても、強盗という共同実行の枠組みの中に含まれる以上、強盗の共同正犯として当然にその責任を免れない。
結論
被告人らの行為は強盗罪を構成し、被告人Bも時計の奪取について共同正犯としての責任を負う。原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
強盗の実行行為(暴行・脅迫)による抑圧状態の継続性と、共同正犯における個別事実の認識不要論を示す。現場共謀がある中での一部実行者による予定外の財物取得(ただし強盗の機会内)について、共犯の責任範囲を肯定する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和24(れ)274 / 裁判年月日: 昭和24年6月30日 / 結論: 棄却
一 原判決が本件強盜罪の構成要件たる「他人の財物」に該當する被害者所有の現金千五百圓及び衣類等一〇數點と判示した以上、更らに衣類等の詳細を判示しなくとも強盜罪の目的物の判示として毫も缺くるところはない。 二 刑の執行猶豫の言渡をしないことが憲法第三六條のいわゆる「殘虐な刑罰」に該らないこと及び刑の執行猶豫の言渡をしない…
事件番号: 昭和23(れ)1370 / 裁判年月日: 昭和24年1月11日 / 結論: 棄却
被告人が相被告人と共謀の上、強盜をした事實を認定している原判決において、二人共謀の事實と共犯者のどちらかが現實に脅迫の實行行爲をしたことが判分上明確である以上、共犯者のうちどちらかが現實に實行行爲をしたかを明示していなくても、被告人の「罪トナルヘキ事實」の判示として缺くるところはない。