一個の強迫行爲によつて數人の者からその所持金を奪つた行爲は刑法第五四條第一項前段にいう「一個ノ行爲ニシテ數個ノ罪名ニ觸レ」にあたるものである。
一個の強迫行爲により數人から財物を奪取する行爲と刑法第五四條一項前段
刑法54條1項,刑法236條
判旨
1個の強迫行為を用いて数人から各別の財物を強取した場合は、刑法54条1項前段にいう「一個ノ行為ニシテ数個ノ罪名ニ触レ」るとき、すなわち観念的競合にあたる。
問題の所在(論点)
1個の脅迫行為によって、その場にいる複数人から金員を奪った場合、数個の強盗罪はどのような罪数関係(刑法54条1項前段の適用の是非)になるか。
規範
1個の暴行または脅迫が、同時に数人の占有者または所有者の権利を侵害し、数個の強盗罪の構成要件に該当する場合、その行為の単一性から刑法54条1項前段の観念的競合として処理すべきである。
重要事実
被告人Cは、共犯者Aと共謀の上、博奕を行っていたDほか数名(各回3名ずつ)に対し、匕首を突き付けて脅迫し、その場にいた複数人の所持金をそれぞれ強奪した。この強盗行為は2回にわたって行われた。被告人側は、強盗行為について数個の罪名に触れるとする原判決の擬律には誤りがあると主張して上告した。
あてはめ
本件において、被告人らは匕首を突き付けて脅迫するという「一個の強迫行為」を行っている。この単一の行為の結果として、その場にいた「数人の者」から各々の所持金を奪うに至っている。したがって、1つの行為が同時に数個の強盗罪という罪名に触れることになり、これを刑法54条1項前段の観念的競合と解した原審の判断は正当である。なお、共謀の範囲に若干の疑義があるとしても、特定の共犯者(A)との共謀が認められる以上、強盗罪の成立を左右するものではない。
結論
1個の脅迫行為により数人から財物を強取した行為は、観念的競合(刑法54条1項前段)にあたる。したがって、原判決の擬律に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
強盗罪などの個人法益に対する罪において、1個の実行行為(暴行・脅迫)により数人の法益を侵害した場合の罪数処理を示す重要判例である。答案上は、行為の単一性と法益の複数性を指摘した上で、54条1項前段を適用する論拠として用いる。
事件番号: 昭和24(れ)2145 / 裁判年月日: 昭和24年12月13日 / 結論: 棄却
一 記録を調べてゐると、原審の裁判長が被告人A、Bの兩名に對して、その氏名、年齢、職業、住居、本籍および出生地について訊問し右被告人等が答辯しているのは、原審第二回公判廷においてだけであることが認められる。されば、所論の原審第五回公判調書において右被告人等のこの點に關する答辯を引用するに際し「第一回公判廷」において述べ…
事件番号: 昭和24(れ)1324 / 裁判年月日: 昭和24年11月10日 / 結論: 棄却
一 數名の強盜犯人が、事前に明示的に強盜することを謀議していた場合ばかりでなく、豫め暗默のうちに強盜をすることを互ひに了解していた場合であつても、又できることなら窃盜だけに止め、止むを得ないときは強盜をする旨打合せていた場合であつてもなお共謀の上強盜をなしたものといい得るのである。 二 舊刑訴法の下では檢察官が公訴を提…