たとえ近親に精神病者があるとしても、犯罪の動機經過、およびその後における被告人の言動等に照し、犯行當時の被告人の精神状態につき特に疑を挾むべき點を認めない場合は専門家による精神鑑定の方法によらずして、犯行當時の被告人の精神状態を判斷してもこれをもつて違法というべきではないのである。(昭和二三年(れ)第四八六號昭和二四年二月一日第二小法廷判決參照)
近親に精神病者がある場合と被告人の精神状態鑑定の要否
舊刑訴法219條,舊刑訴法336條,舊刑訴法337條
判旨
被告人の近親者に精神病者がいるとしても、犯罪の動機や犯行前後の言動等から精神状態に特段の疑いがない場合には、専門家による鑑定を経ずに被告人の責任能力を判断しても違法ではない。
問題の所在(論点)
被告人の親族に精神病歴がある場合に、専門家による精神鑑定を経ることなく被告人の犯行当時の責任能力を認定することは、刑事訴訟上の適法な手続として認められるか。
規範
被告人の責任能力(刑法39条)の判断にあたり、専門家による精神鑑定の実施は常に必須ではない。犯罪の動機、犯行の経過、及び犯行後における被告人の言動等に照らし、犯行当時の被告人の精神状態について特に疑いを挟むべき事情が認められないのであれば、鑑定を経ずに裁判所の合理的判断により精神状態を認定することが許容される。
重要事実
被告人の弁護人は、被告人の近親者に精神病者がいることを理由に、犯行当時の被告人の精神状態を判断するには専門家による精神鑑定が必要である旨を主張して上告した。原審は、精神鑑定を実施することなく、証拠等に基づいて被告人の責任能力を認めて有罪判決を下していた。
あてはめ
本件では、被告人の近親者に精神病者が存在するという事実は認められる。しかし、犯罪の動機や犯行に至る経過、さらには犯行後における被告人の言動といった具体的事実に照らせば、犯行当時の被告人の精神状態に特段の疑いを挟むべき事情は見当たらない。したがって、裁判所が専門家の鑑定を経ずに被告人の精神状態を判断したとしても、適法な事実認定の範囲内であるといえる。
結論
被告人に責任能力を認めるにあたり、精神鑑定を実施しなかった原審の判断に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
責任能力が争点となる事案において、鑑定の必要性を判断する枠組み(動機・経過・犯行後の言動)を示す。実務上、弁護側が鑑定を請求した際、裁判所がこれを却下して自ら精神状態を判断する場合の論拠となる。もっとも、現在では重大事案等で少しでも疑いがあれば鑑定を行うのが通例であり、本判例の射程は「疑いを挟む余地がないほど明白なケース」に限定して解釈すべきである。
事件番号: 昭和23(れ)771 / 裁判年月日: 昭和24年6月29日 / 結論: 棄却
その近親者ことに母、兄等に多くの精神病者がある旨の供述をしても、原判決の認定した本件犯行の動機經過、事後の處置等については、特に犯人の精神状態の異常を思わしむるような點もないのであつて、かかる場合に裁判所が右犯罪の情状及び被告人の公判廷における言語、動作、その他諸般の状況からして、被告人の精神状態について、別段疑惑を挾…
事件番号: 昭和24(れ)2151 / 裁判年月日: 昭和24年12月24日 / 結論: 棄却
論旨は、本件には、再審を請求することのできる場合に該る事由があるというのであるが、かかる事由は上告の適法な理由とすることのできないことは、刑訴應急措置法第一三條第二項の規定するところである。