論旨は、本件には、再審を請求することのできる場合に該る事由があるというのであるが、かかる事由は上告の適法な理由とすることのできないことは、刑訴應急措置法第一三條第二項の規定するところである。
再審請求の事由を理由とする上告の適否
舊刑訴法409條,舊刑訴法485條,刑訴應急措置法13條2項
判旨
被告人の精神状態が犯行当時正常であったと認められる場合、弁護人が申請した鑑定や証人尋問を採用しなくても審理不尽等の違法はない。また、情状に関する主張にとどまる場合、刑の加重減免の理由となる事実の主張には当たらず、判決で判断を明示する必要はない。
問題の所在(論点)
被告人の精神状態に関する証拠申請を却下することが審理不尽にあたるか。また、精神状態に関する弁護人の主張が、判決に判断を付すべき「刑の加重減免の原由たる事実の主張」に該当するか。
規範
1. 証拠採用の是非は裁判所の合理的な裁量に委ねられており、諸般の証拠に基づき被告人の犯行当時の精神状態に異常がないと認められる場合には、更なる鑑定や証人尋問の申請を却下しても、経験則違反や審理不尽の違法とはならない。2. 旧刑事訴訟法360条2項(現335条2項に相当)が判決に判断を求める「刑の加重減免の原由たる事実の主張」とは、単なる情状に関する主張は含まれず、法律上の刑の減免を基礎付ける具体的構成要件的な事実の主張を指す。
重要事実
被告人が犯行に及んだ際、その精神状態について弁護人から鑑定の実施および証人尋問の申請がなされ、あわせて上申書が提出された。原審は、他の証拠から被告人の犯行当時の精神状態に異常はなかったと判断し、これらの申請を採用しなかった。また、判決において当該申請や上申の内容(精神状態)に関する判断を明示しなかったため、被告人側が審理不尽および理由不備の違法を主張して上告した。
あてはめ
1. 原審は諸般の証拠を総合し、被告人の精神状態に別段の異常がないことを十分に認定している。したがって、更なる鑑定等の証拠を必要としないと判断したことに不合理な点はなく、採証上の法則に違反しない。2. 弁護人による鑑定申請や上申書の提出は、記録を検討すると被告人の「情状」に関するものとしてなされたと解するのが相当である。これは法律上の刑の減免を直接求める「事実上の主張」の形式を具備しておらず、判決で個別に判断を示す義務は生じない。
結論
原判決に審理不尽や判断遺脱の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟法335条2項の「法律上刑の加重減免の理由となる事実の主張」に関する判断枠組みを示すものである。心神喪失や心神耗弱を明示的に主張せず、単に「情状」として精神の不安定さを訴えるにとどまる場合には、裁判所は判決文で個別にこれに答える必要がないとする実務上の準則を形成している。
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