本件で重要な關係にある犯罪の動機が判決において具體的に判示確定されておらず、却つて異常な特殊事情が伏在する疑が濃厚である本件の場合に、この點に關する證據申請を全部却下してその審理をなさず、しかも犯行當事の精神状態を判断説示するのに、前記のように只抽象的な犯罪の動機と犯行後數ケ月を經た原審公判廷における被告人の供述態度等をもつて犯行當時正常の精神状態にあつたと認める旨を説示した原判決は、審理不盡に基く理由不備の違法あるものと言わざるを得ない。
精神異状の疑濃厚な場合、この點に關する審理を盡さず抽象的な犯罪の動機等により精神状態の正常を認定した判決の違法
刑訴法336條,刑訴法360條
判旨
被告人の責任能力に関し、具体的な犯罪動機が不明であり、かつ犯行後の行動等に特殊異常な事情が伏在する疑いがある場合には、証拠申請を却下して十分な審理を尽くさずに精神状態を判断することは、審理不尽・理由不備として違法となる。
問題の所在(論点)
刑法39条の責任能力の判断において、具体的な動機が不明で異常な言動がうかがえる場合に、十分な証拠調べを行わず、抽象的な判示のみで精神状態を判断することが、刑事訴訟法上の審理不尽・理由不備に該当するか。
規範
被告人の犯行当時の精神状態(責任能力の有無・程度)を判断するにあたっては、単に抽象的な犯罪動機や公判廷における供述態度のみに依拠するのではなく、具体的な犯罪の原因・動機の有無、犯行直前・直後の行動の合理性、及び親族の精神病歴といった特殊事情の有無を総合的に考慮し、実質的な審理を尽くさなければならない。
重要事実
被告人は強盗致傷等の罪で起訴された。弁護人は心神耗弱を主張し、証人尋問及び精神鑑定を申請したが、原審は不必要として却下。原審は、被告人が受験準備中であり「金品強奪を考えた」という抽象的な動機と、公判廷での供述態度から、正常な精神状態であったと認定した。しかし、被告人の金銭的窮状や犯行に至る具体的な経緯、犯行直後の特殊な物品隠匿行動、さらに祖父の精神病による自殺歴など、精神異常を疑わせる具体的な事実が記録上現れていた。
あてはめ
本件では、被告人が金銭に窮していた事情や犯行を示唆された事情等が証拠上明確ではなく、犯罪動機の判示が極めて抽象的である。一方で、犯行直後の金品処置には常識に反する特殊異常な点があり、親族の精神病歴も主張されていた。このような特殊事情が伏在する疑いが濃厚な状況下では、証拠申請を却下したまま、数ヶ月後の公判廷での態度等から犯行時の精神状態を推認することは、事実確定の基礎を欠く。したがって、本件の判断過程には十分な審理が尽くされたとはいえない評価がなされる。
結論
原判決には審理不尽に基づく理由不備の違法があり、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
責任能力が争点となる事案において、検察側が主張する「一見合理的な動機」が抽象的なものに留まり、一方で犯行態様や事後行動に異常性が認められる場合、鑑定等の証拠調べを省略してはならないとする、裁判所の審理義務を基礎づける判例として活用できる。
事件番号: 昭和24(れ)2151 / 裁判年月日: 昭和24年12月24日 / 結論: 棄却
論旨は、本件には、再審を請求することのできる場合に該る事由があるというのであるが、かかる事由は上告の適法な理由とすることのできないことは、刑訴應急措置法第一三條第二項の規定するところである。