一 裁判所が辯護人が申請した被告人の精神鑑定を却下しながら、被告人の供述、行動、態度その他の資料にょつて被告人を精神異常者にあらずと判斷したからといつて、經驗則に反するものと云うことはできない。又鑑定の申請を却下したことは原審の專權に屬することであるから、それを違法と云うことはできない。 二 原審第一回の公判廷に於て辯護人は第一審相被告人Aの證人訊問を申請したが、原審はこれを却下した。次いで右公判手續は原審第二回公判において、判事の更迭があり構成を異にする別個の裁判所において辯論の更新を爲し、裁判長は被告人に對し右Aに對する司法警察官の聽取書を讀み聞け、特に被告人はその供述者の訊問を請求し得る旨を告げたに拘わらず、被告人からも辯護人からもその請求が無かつたことがわかる。右の如く裁判所の構成が變つて別個の裁判所となり更新された辯論において特に裁判長から注意があつたに拘わらず、訊問の請求がなかつたのであるから、刑訴應急措置法第一二條第一項にいわゆる「請求」がなかつた場合と見るべきである。然らば原審は右聽取書を證據とすることができるのである。
一 被告人の精神状態を鑑定によらず、その供述、行動、態度その他にょつて判斷することの可否と實驗則違反 二 第1回の公判において刑訴應急措置法第一二條第一項に基く證人申請が却下され更新後の第二回公判において、裁判長から特に右規定に基く請求權のあることを告知されたるに拘わらず、證人の申請を爲さなかつた場合右規定の書類を證據となし得るか
刑法39條,刑訴法337條,刑訴法344條1項,刑訴應急措置法12條1項
判旨
被告人の近親者に精神異常者が多数いる場合、裁判所は精神状態を慎重に判断すべきであるが、被告人本人の言動等から異常の疑いがないと判断し、それが経験則に反しない限り、精神鑑定を経ずに心神喪失等の主張を退けても違法ではない。
問題の所在(論点)
被告人の近親者に多数の精神異常者が存在する場合において、裁判所が専門家による精神鑑定を行うことなく、本人の言動等の資料のみから責任能力の有無を判断することが、証拠調べの必要性に関する経験則に反し違法となるか。
規範
裁判所は、被告人の近親者に相当多数の精神異常者がいる場合には、被告人の精神状態について特に慎重な注意と考慮を払い、良識により合理的な判断を下さなければならない。もっとも、裁判所が事件を審理した結果、被告人の供述、行動、態度その他一切の資料によって被告人本人について精神異常の疑いがないと判断し、その判断が経験則に反しない限り、鑑定を実施せずに判断を下しても違法とはいえない。また、証拠調べの採否は裁判所の専権に属する。
重要事実
被告人Bは強盗殺人等の罪に問われた。弁護人は、Bの血縁関係者に相当多数の精神異常者が存在することを理由に精神鑑定を申請し、心神耗弱を主張した。第一審判決に添付された系図等の証拠によれば、近親者に多数の精神異常者がいる事実は認められた。しかし、原審は精神鑑定の申請を却下した上で、審理の結果、被告人の犯行当時の状態は心神耗弱にはなかったと判断し、有罪判決を維持した。B側は、近親者の状況に照らせば鑑定なしに精神状態を判断したことは経験則に反し違法であるとして上告した。
あてはめ
本件において、原審は近親者に精神異常者が多いことを示す証言や家系図の証拠を考慮に入れた上で、被告人の供述や行動、態度等の資料を総合して検討している。被告人本人に精神の異常を疑わせる事情がないと判断し、その結論が経験則に反すると認めるべき資料はない以上、精神鑑定の申請を却下して自ら責任能力の有無を判断したことは裁判所の合理的な裁量の範囲内といえる。したがって、近親者の血統という一事をもって、鑑定を経ない判断が直ちに経験則に反し違法となるものではない。
結論
被告人の近親者に精神異常者がいる場合であっても、裁判所が諸資料に基づき本人に異常の疑いがないと合理的に判断したならば、精神鑑定を行わずに責任能力を否定しても違法ではない。
実務上の射程
刑事訴訟における証拠調べの必要性(刑訴法297条、320条等)および責任能力の判断枠組みに関する判例。裁判所に専門的知識の補助を求める鑑定の採否は原則として裁判所の裁量に属するが、具体的な疑いがある場合には慎重な判断が求められるという限界を示している。実務上は、血統等の外部的事情があっても、本人の具体的犯行態様や供述態度から異常性を否定できる場合には裁判所による単独判断が許容される論拠となる。
事件番号: 昭和25(れ)1277 / 裁判年月日: 昭和26年3月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が犯行前に飲酒した事実を述べていても、酩酊による心神耗弱の主張が特になされていない場合、裁判所が判決においてその点に特段の判断を示さなくても違法とはいえない。 第1 事案の概要:被告人は犯行前に酒を飲んでいた事実を公判で述べていた。しかし、記録上、被告人側から「酩酊により心神耗弱の状態にあっ…
事件番号: 昭和24(れ)2151 / 裁判年月日: 昭和24年12月24日 / 結論: 棄却
論旨は、本件には、再審を請求することのできる場合に該る事由があるというのであるが、かかる事由は上告の適法な理由とすることのできないことは、刑訴應急措置法第一三條第二項の規定するところである。