憲法第一三條は、個人の尊嚴と人格の尊重を宣告したものであるが、同條には「公共の福祉に反しない限り」との大きな枠をつけており、また他方において憲法第三一條においては、社曾秩序保持のため必要とされる國家の正當なる刑罰權の行使を是認しているのである。されば、被告人が現時國民に非常なる害惡を與え國民憎惡の的である掏摸を行つたことに對し、原審が諸般の事情を考慮して、實刑を科する判決を言渡したことは、事實審である原審の自由裁量權に屬することであつて、これをもつて憲法違反乃至違法であると言うことはできない。
掏摸に對する實刑の言渡の合憲性
憲法13條,憲法31條,刑法235條
判旨
憲法13条が保障する幸福追求権等の個人的人権も、社会生活の秩序維持という公共の福祉による制限を免れない。したがって、犯罪行為に対して諸般の事情を考慮し実刑を科すことは事実審の裁量に属し、同条に違反しない。
問題の所在(論点)
個人の生命・自由・幸福追求権を尊重する憲法13条の下で、比較的軽微な犯罪(スリ)に対し、前科等の事情を考慮して実刑を科すことが、同条に違反し許されないのではないか。
規範
憲法13条は個人の尊厳と人格の尊重を宣言しているが、個人の自由や権利も、社会生活の正しい秩序や共同の幸福が保持されない限り存立し得ない。ゆえに、同条は「公共の福祉に反しない限り」という制約を設けており、また憲法31条が社会秩序保持のために国家の正当な刑罰権行使を是認していることに照らせば、犯罪に対する適正な刑罰の科刑は、同条に違反するものではない。
重要事実
被告人は、若い婦人の胸ポケットから半分ほど出ていた小鏡をすり取った(スリ行為)。被告人はその場で警察官に捕らえられ、直ちに被害品を返還した。被告人は数人の子の父であり左官職人として働いていたが、十数年前に針金を自宅に持ち帰ったという前科があった。原審はこれらの事実に対し、懲役6月の実刑を言い渡した。これに対し、弁護人は人権軽視であり憲法13条に違反すると主張して上告した。
あてはめ
被告人の行為は「国民に非常なる害悪を与え国民憎悪の的である掏摸(スリ)」に該当する。憲法13条の保障は公共の福祉による制限を受けるものであり、また憲法31条は刑罰権の行使を肯定している。本件において、原審が被告人の生活状況や前科、犯罪の性質等の諸般の事情を考慮して実刑を科したことは、事実審に委ねられた自由裁量の範囲内にある。したがって、人権の不当な軽視とはいえず、公共の福祉に基づく正当な刑罰権の行使として適法である。
結論
本件実刑判決は憲法13条に違反しない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、憲法13条の権利が「公共の福祉」による制約を受けることを示した初期の重要判例である。答案上では、人権の絶対的無制約性を否定し、社会秩序維持(刑罰権の行使)との調整が必要であることを論じる際の根拠として活用できる。特に、量刑が著しく不当であるとの主張に対し、それが直ちに憲法違反となるわけではないという裁量論の文脈で引用される。
事件番号: 昭和23(れ)950 / 裁判年月日: 昭和23年10月21日 / 結論: 棄却
一 公判調書が、挿入削除多くその書入方が亂雜であり、その挿入削除の認印及び契印の押捺も亦粗略で不鮮明であつても、刑訴法第七一條第二項、第七二條所定の通り適式に爲されており、これを通讀すれば後日の編綴又は挿入削除があつたと認められない場合には、該調書を違法であり、無効であると斷定することはできない。 二 憲法第三七條は、…
事件番号: 昭和28(あ)5511 / 裁判年月日: 昭和30年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法定刑の範囲内で被告人に実刑を科し、執行猶予を付さなかったとしても、直ちに憲法13条に違反するものではない。 第1 事案の概要:被告人に対し、下級審が法定刑の範囲内で実刑判決を言い渡し、執行猶予を付さなかった。これに対し弁護人は、実刑を科し執行猶予を付さないことは憲法13条(個人の尊厳・幸福追求権…
事件番号: 昭和23(れ)531 / 裁判年月日: 昭和23年9月11日 / 結論: 棄却
被告人が實刑を科せられた爲めに被告人の家族が生活困難に陷ることがあつても、その判決をもつて違憲であると言うことはできないことは、既に當裁判所の判例とするところである(昭和二二年(れ)第二〇一號昭和二三年三月二日言渡、昭和二二年(れ)第一〇五號昭和二三年四月七日言渡)