一 公判調書が、挿入削除多くその書入方が亂雜であり、その挿入削除の認印及び契印の押捺も亦粗略で不鮮明であつても、刑訴法第七一條第二項、第七二條所定の通り適式に爲されており、これを通讀すれば後日の編綴又は挿入削除があつたと認められない場合には、該調書を違法であり、無効であると斷定することはできない。 二 憲法第三七條は、刑事被告人が證人審問の機會を求め得る等の所謂國家に對する受益權の一種を認めたものであつて、必ずしも刑事訴訟手續における證人尋問につき常に直接審理主義を採用すべきことを明定した規定ではない。それ故、憲法の該條項を根據として、刑事被告人が自ら右權利を行使しないにも拘わらず、裁判所は職權を以て必ず證人を公判廷において直接尋問しなければならぬということを推斷し、さらにこれを理由として被告人の請求を待つて證人尋問をなすべき旨を規定した刑訴應急措置法第一二條を違憲なりとする所論は、その根底において理由なきものである(昭和二三年(れ)第一六七號事件、同年七月二九日言渡大法廷判決參照)。 三 裁判所が、被告人に對し、實刑を科し執行猶豫の言渡をしなかつたとしても、それは法律の認めた自由裁量の範圍に屬するところであり、必ずしも憲法第一三條により保障せられている個人の尊嚴を侵すものと速斷することはできない。(昭和二三年(れ)第二〇一號、同年三月二四日言渡大法廷判決參照)。 四 具體的事件における裁判が不當に刑の執行猶豫の言渡をしなかつたとしても、これを目して直ちに憲法第三七條第一項に違反するものとはいい得ない。(昭和二二年(れ)第四八號、同二三年五月二六日言渡大法廷判決參照)。
一 作成の粗雜な公判調書の効力 二 憲法第三七條第二項の法意と刑訴應急措置法第一二條の合憲性 三 刑の執行猶豫の言渡をしなかつた判決と憲法第一三條 四 刑の執行猶豫の言渡をしなかつた判決と憲法第三七條第一項
刑訴法71條2項,刑訴法72條,憲法37條2項,憲法13條,憲法37條1項,刑訴應急措置法12條1項,刑法25條
判旨
刑の執行猶予を付すか否かは事実裁判所の広範な自由裁量に委ねられており、公共の福祉の観点から適法な手続に基づき実刑を科すことは憲法に違反しない。また、憲法37条1項の「公平な裁判所」とは組織や構成の中立性を指し、具体的判断の当否を直接保障するものではない。
問題の所在(論点)
刑の執行猶予を付さない裁判所の裁量判断が、個人の尊厳や幸福追求権(憲法13条)を侵害するか。また、具体的な量刑判断の不当が「公平な裁判所の裁判」(憲法37条1項)に違反するか。
規範
刑の執行猶予の言渡し(刑法25条)は、裁判所の自由裁量に属する。憲法13条の幸福追求権等は「公共の福祉に反しない限り」で尊重されるものであり、適正な手続(憲法31条)による刑罰の賦課は許容される。また、憲法37条1項の「公平な裁判所」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもった裁判所を意味し、個々の裁判の内容が具体的・実質的に公正妥当であることを直接指すものではない。
重要事実
被告人が上告審において、原審が刑の執行猶予を言い渡さず実刑を科したことにつき、個人の尊厳を侵し(憲法13条違反)、かつ「公平な裁判所の裁判」を受ける権利(憲法37条1項)を侵害するものであると主張して、量刑の不当を争った事案である。
あてはめ
執行猶予の可否は、裁判所が犯罪事実を認定し諸般の情状を斟酌して決定する裁量的判断である。社会秩序維持という公共の福祉を保持するため、法律の定める手続に基づき自由を奪う刑罰を科すことは憲法31条により正当化される。本件で原審が犯情の全貌を斟酌し実刑を選択したことは、自由裁量権の範囲内である。さらに、憲法37条1項は裁判所の「組織・構成」の中立性を保障する規定であるから、量刑という「裁判の内容」が不当であるとの主張は、同条違反の理由にはなり得ない。
結論
原判決に憲法違反の違法はなく、執行猶予を付さなかった判断は正当な裁量の範囲内である。量刑不当の主張は適法な上告理由に当たらないため、上告を棄却する。
実務上の射程
憲法13条や37条1項の射程を限定し、量刑判断という実体的な不服を憲法問題にすり替える主張を封じる際の論拠として有用である。特に「公平な裁判所」の定義については、組織・構成の制度的担保を意味する点において、現代の司法試験答案でも定型的に引用される規範である。
事件番号: 昭和23(れ)1719 / 裁判年月日: 昭和24年4月23日 / 結論: 棄却
一 所論刑訴應急措置法第一三條第二項は量刑不當或は事實誤認は上告理由として之を主張することを許さない趣旨を規定したものである。而して右條項は憲法に違反するものでないことは既に當裁判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第二九〇號同二三年六月三〇日大法廷判決。昭和二二年(れ)第四三号、同二三年三月一〇日大法廷判決…