一 刑の執行猶豫を言渡すかどうかは、事實審たる裁判所の刑の量定に關する專權事項であるから、裁判所が刑の執行を猶豫する情状がないと認めて、その執行を猶豫しなかつたとしても、それが經驗法則に反しない限り、刑法第二五條に違反するものではない。 二 判決には刑の執行を猶豫しない理由を示すべき規定はないのであるから、原判決がその理由を示さなくとも違法はない。
一 原審が刑の執行猶豫を言渡さなかつたことを理由とする上告理由 二 刑の執行猶豫をしない理由についての判示の要否
刑法25条,日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律13条2項,刑訴法360条2項
判旨
刑の執行猶予を言い渡すか否かは事実審裁判所の専権事項であり、経験法則に反しない限りその裁量は尊重される。また、判決において執行猶予を付さない理由を明示する必要はない。
問題の所在(論点)
刑法25条に基づく刑の執行猶予の付与は裁判所の義務か。また、執行猶予を付さない場合にその理由を判決書に明示する必要があるか。
規範
刑の執行猶予の可否は、事実審裁判所の刑の量定に関する専権事項に属する。したがって、裁判所が執行猶予を付さないと判断したとしても、その判断が経験法則に反しない限り刑法25条に違反するものではない。また、現行法上、執行猶予を付さない理由を判決書に記載すべき義務を課す規定は存在しない。
重要事実
被告人は、生活困窮から工場に侵入し、電動機1台を窃取しようとして工具で取り外している最中に看守人に見付かり、窃盗未遂の罪に問われた。弁護人は、被告人が過去に強盗罪で服役したがその後長期間更生に励んでいたことや、家族の生活苦という同情すべき動機、改悛の情が顕著であることを主張し、執行猶予を付さなかった原判決は刑法25条の適用を誤った違法があると主張して上告した。
あてはめ
事実審である原裁判所は、被告人の諸事情を考慮した上で執行猶予を付すべき情状がないと認めており、この判断過程において経験法則に反するような不合理な点は認められない。執行猶予の付与は権利に基づく請求ではなく、裁判所の裁量による刑の量定の問題である。さらに、不利益処分である執行猶予の拒絶について、判決に特段の理由を示すべき法令上の根拠も存在しない。
結論
執行猶予を付さなかった原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
量刑の裁量権に関する基本判例であり、執行猶予が付されなかったことのみを理由とする違法主張を封じる際の法的根拠となる。ただし、現代の刑事裁判実務では、量刑事情の検討はより緻密に行われるため、本判決が説く『経験法則に反しない限り』という制約(裁量の濫用チェック)が実質的な争点となる。
事件番号: 昭和25(あ)2732 / 裁判年月日: 昭和26年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実刑判決によって被告人の家族が生活困難に陥るとしても、当該判決が憲法25条に違反することはない。 第1 事案の概要:被告人に対し実刑が科されたことにより、残された家族が生活困難な状況に陥る事態が生じた。弁護人は、このような実刑判決は家族の生存権を侵害するものであり、憲法25条に違反すると主張して上…