原判決は、窃盜罪の目的物表示として、A所有の中古自轉車一臺と記載して居るので、被告人の窃取した他人の財物が如何なるものであるかを、具體的明確に示されて居ると言うべきであつて、これ以上自轉車の色合とか何吋のものであるとかの點まで示さなくとも論旨の如き違法はないものである。
窃盜罪における窃取物件の表示
刑法235條,刑訴法360條1項,刑訴法410條19號
判旨
「被告人の自白」に補強証拠を要するとする応急措置法10条3項(現行刑訴法319条2項)の「自白」には、公判廷における自白は含まれない。また、窃盗罪の目的物は、他人の財物が何であるかを具体的に特定できる程度の記載があれば足り、詳細な特徴の表示までは不要である。
問題の所在(論点)
1. 公判廷における自白は、憲法38条3項および応急措置法10条3項にいう「自白」に含まれ、補強証拠を必要とするか。 2. 窃盗罪の目的物の表示として、どの程度の具体性が必要か。
規範
「日本国憲法施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律」10条3項(現行憲法38条3項、刑訴法319条2項に対応)にいう「本人の自白」とは、被告人の公判外の自白を指し、公判廷における自白は含まれない。したがって、公判廷での自白があれば、補強証拠がなくとも有罪判決をなし得る。
重要事実
被告人は、民家の表出入口から侵入し、台所にあった中古自転車1台を窃取したとして窃盗罪で起訴された。第一審および第二審において、裁判所は被告人の公判廷での自白と、被害者Aの被害届を証拠として有罪を認めた。これに対し被告人側は、被害届は「自転車を紛失した」事実にすぎず、被告人が犯人であるとの補強証拠にならないため、自白のみによる有罪判決を禁じた規定に違反すると主張して上告した。また、判決における目的物の表示が不十分であり理由不備があるとも主張した。
事件番号: 昭和22(れ)14 / 裁判年月日: 昭和23年2月12日 / 結論: 棄却
一 判決における證據摘示の有無は判決書の全面にわたりこれを索むべく必ずしもいわゆる證據説明の部分に限定すべきでない。 二 公判廷における被告人の自白は、憲法第三八條第三項及び刑訴應急措置法第一〇條第三項の自白に含まれない。(なお、公判廷における自白について、裁判官齊藤悠輔の補足意見がある)
あてはめ
1. 応急措置法10条3項の趣旨に照らせば、同条にいう「自白」とは公判外のものを指す。本件では被告人が原審公判廷において犯行を認める自白をしており、これは同条の制限を受けない。したがって、仮に被害届が補強証拠として不十分であったとしても、公判廷自白に基づき有罪を認定することに憲法上の問題はない。 2. 目的物の表示については、原判決は「A所有の中古自転車一台」と記載しており、窃取した財物が何であるかを具体的に明確に示している。自転車のインチ数や色合いといった詳細な点まで判示しなくとも、他人の財物を特定するに足りる記載があるといえる。
結論
1. 公判廷における自白は補強証拠を要しないため、原判決に違法はない。 2. 目的物の表示は、財物の同一性を識別できる程度に記載されていれば足り、理由不備には当たらない。上告棄却。
実務上の射程
自白の補強証拠の要否に関する初期の重要判例。本判決は「公判廷自白には補強証拠不要」とするが、その後の大法廷判決(最大判昭23.7.29)により、憲法38条3項の「自白」には公判廷の自白も含まれると判例変更された。現在、実務上は公判廷自白であっても刑訴法319条2項に基づき補強証拠を必要とする点に注意が必要である。一方、目的物の特定に関する判示部分は、判決書における事実摘示の程度の基準として現在も参考になる。
事件番号: 昭和25(れ)1867 / 裁判年月日: 昭和26年3月9日 / 結論: 棄却
窃盗犯人が被告人であることの証拠は被告人の自白だけであつても、被害者の始末書に窃盗被害の日時及び被害物件等について被告人の自白にかかる事実を裏書するに足りる記載がある以上、右自白と始末書の記載を綜合して被告人に窃盗の罪を認めても違憲違法ではない。
事件番号: 昭和22(れ)153 / 裁判年月日: 昭和23年6月9日 / 結論: 棄却
一 原判決は、被告人の自白のみによつて判示事實を認定したものではなくて、被告人の自白の外に、Aの提出した(強盗)盗難被害届と匕首の存在とを總合して判示事實を認定したものであることは記録上明白であり、右證據によつて優に判示事實を認定するに足るものである。所論の如く被告人がB、C等と共謀したという事實に對する證據は被告人の…