一 被告人の公判廷における自白は、憲法第三八條第三項にいわゆる「本人の自白」には含まれないと解すべきことは、當裁判所判例の示すとおりである。 二 該上衣一着は本件窃盜罪の客體たる衣類パジヤマ上下婦人服上下合計四點中の一點中の一點であつて一個の犯罪の客體の一部に過ぎないものであるから、かかる一部分につき特に判斷を示さなかつたからと言つて所論のように審判の請求を受けた事件につき判決をしなかつた違法ありといえない。 三 假に本件において所論陳述のような事情があるとしても法の適用は現實の事態と法制定の趣旨に從つてなさるべきことは當然であるから被告人に對し刑の執行猶豫の言渡をしなかつたからといつて原判決には所論のごとき違法はない。 四 刑の量定に對する不服は刑訴應急措置法第一三條第二項の規定によれば上告の理由と認められなくなつた。そして同條項の規定は、基本的人權を侵害するものとして憲法に違反するというを得ないことは、當裁判所判例(昭和二二年(れ)第四三號同二三年三月一〇日大法廷判決)の示すとおりである。
一 被告人の公判廷における自白と憲法第三八條第三項にいわゆる「本人の自白」 二 窃盜罪の客體の一部につき判斷を示さなかつたことの正否 三 事實審の專權範圍としての刑の執行猶豫の言渡 四 刑訴應急措置法第一三條第二項の合憲性
憲法38條3項,憲法11條,刑法235條,刑法25條,刑訴法360條1項,刑訴應急措置法13條2項
判旨
被告人の公判廷における自白は、憲法38条3項にいう「本人の自白」に含まれないため、これのみを証拠として有罪判決を下すことができる。また、一個の犯罪事実の一部が認定されなかったとしても、それが全体の一部に過ぎない場合は、判決の不尽とはならない。
問題の所在(論点)
1.公判廷における被告人の自白のみに基づいて有罪を認定することは、憲法38条3項に違反するか。 2.一個の犯罪の客体の一部について、判決において明示的な判断を示さないことは審理不尽の違法にあたるか。
規範
憲法38条3項が「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」と規定する「本人の自白」には、被告人が公判廷において行った自白は含まれない。また、一個の犯罪を構成する客体の一部について判決で明示的な判断を示さずとも、その余の事実によって犯罪が成立する以上、審理不尽の違法はない。
重要事実
被告人は、倉庫から連合国占領軍の財産であるパジャマ上下および婦人服上下(計4点)を窃取したとして窃盗罪で起訴された。原審は、被告人が公判廷において「パジャマ上下および婦人服下衣を窃取した」旨を供述したことを証拠として有罪を認めたが、起訴状に含まれていた「婦人服上衣1着」については特段の判断を示さなかった。被告人は、公判廷の自白のみによる有罪認定の違憲性と、一部の事実に対する判断遺漏を理由に上告した。
あてはめ
1.憲法38条3項の趣旨は、密室での強要等による不当な自白のみで有罪とされることを防ぐ点にある。しかし、裁判官の前で公開の法廷にて行われる公判廷の自白については、自由な意思に基づき慎重になされることが制度上保障されており、同項の「本人の自白」には含まれない。したがって、本件で原審が公判廷での供述のみを証拠として有罪を認定した点は合憲である。 2.本件において、判決が判断を示さなかった「婦人服上衣1着」は、起訴された窃盗罪の客体4点中の一部であり、一個の犯罪事実の細部に過ぎない。他の3点について自白に基づき有罪を認めている以上、全体として一個の窃盗罪が成立することに変わりはなく、一部の不認定を特筆しなかったとしても判決の結論に影響する違法はない。
結論
1.公判廷の自白は憲法38条3項の自白に含まれず、それのみで有罪認定が可能である。 2.一個の犯罪事実の一部についての判断欠落は、直ちに審理不尽の違法とはならない。
実務上の射程
憲法38条3項の補強法則の適用範囲に関する重要判例である。答案上は、自白の証拠能力や補強証拠の要否が問われる場面で「公判廷外の自白」と「公判廷の自白」を区別する根拠として活用する。また、訴因と認定事実の不一致(一部の減縮)が判決の正当性に影響しない点も刑事訴訟法の実務上重要である。
事件番号: 昭和23(れ)286 / 裁判年月日: 昭和23年7月29日 / 結論: 棄却
憲法第三八條第三項及び刑訴應急措置法第一〇條第三項いわゆる「本人の自白」には、公判廷における被告人の自白を含まない。
事件番号: 昭和22(れ)14 / 裁判年月日: 昭和23年2月12日 / 結論: 棄却
一 判決における證據摘示の有無は判決書の全面にわたりこれを索むべく必ずしもいわゆる證據説明の部分に限定すべきでない。 二 公判廷における被告人の自白は、憲法第三八條第三項及び刑訴應急措置法第一〇條第三項の自白に含まれない。(なお、公判廷における自白について、裁判官齊藤悠輔の補足意見がある)
事件番号: 昭和22(れ)77 / 裁判年月日: 昭和23年2月12日 / 結論: 棄却
憲法第三八條第三項並に刑訴應急措置法第一〇條第三項にいわゆる「本人の自白」には、公判廷における被告人の自白を含まない。