一 原判決の認定したところは本件犯行の動機から被害者の傷害の結果に至るまでいろいろの事柄にふれてはいるけれども結局これは被告人の強盜殺人未遂という一個の犯罪を形成し又はこれと密接する一連の事實關係を認定したに過ぎないのであつて原判決の舉示する證據を綜合すれば優にこの事實關係を認めることができる。辯護人の主張するように右一連の事實關係のうち、どの事實はどの證據で認定すると一々各別に之を判示する必要はないのである。 二 第一審の相被告人Aの豫審に於ける供述は同人が被告人と共に本件犯罪をなした後一ケ月餘(勾留後二十五日)になされたものであり、本件犯罪の性質其の他諸般の事情から見て必ずしも不當に長い拘禁後の自白とはいへない。 三 被告人が檢事に對して本件の犯行を自白したのはその犯行(昭和二十一年十二月九日)後十九日目であり被告人が勾留せられてから僅に四日目であることは記録の上で明白であつて本件犯罪の性質其他諸般の事情から見てこの自白を以て論旨のいうように不當に長い拘禁の後の自白ということはできない。 四 共犯者たる相被告人が豫審に於て爲した自白を被告人の犯罪事實を認定する唯一の證據として採用することは刑訴應急措置法第一〇條第三項に違反しない。
一 犯罪事實の認定と證拠との関係 二 相被告人が勾留後二十五日にした自白と不當に長い拘禁後の自白 三 勾留後四日目にした自白と不當に長い拘禁後の自白 四 共犯者たる相被告人の公判外の自白と刑訴應急措置法第一〇條第三項
刑訴法360條1項,刑訴法410條19號,憲法38條2項,刑訴應急措置法10條2項,刑訴應急措置法10條3項
判旨
共犯者の自白は、自己の犯罪事実を認めるものであると同時に、他者の犯罪を立証する第三者の供述としての性質を併せ持つため、憲法38条3項の「本人の自白」には当たらない。
問題の所在(論点)
共同被告人の自白を、他の被告人の犯罪事実を認定するための証拠とすることは、憲法38条3項(自白のみによる有罪判決の禁止)に抵触するか。また、不当に長い拘禁後の自白として証拠能力を否定すべきか。
規範
憲法38条3項(および応急措置法10条2項)にいう「自白」とは、被告人自身の供述を指す。共同被告人による供述は、自己の犯行を認める性質を有していても、他の共同被告人の犯罪事実を証明する部分については、被告人以外の者の供述として証拠能力が認められる。また、自白排除法則の対象となる「不当に長い拘禁」か否かは、犯罪の性質、拘禁期間、その他の諸般の事情を総合して判断すべきである。
重要事実
被告人Fは、共犯者A・Bと共謀し、喫茶店留守居の女性を殺害して金品を強奪しようと企てた。Aが女性の頸部を絞め、被告人が口を押さえる等の暴行を加え、殺害したと誤信して金品を奪ったが、女性は一命を取り留めた。原審は、被告人自身の検察官に対する自白、および共犯者Aの予審における供述(被告人の殺意や分担に関する部分)等を総合して、強盗殺人未遂罪の成立を認めた。これに対し、被告人側は、自己の自白および共犯者Aの自白はいずれも不当に長い拘禁後のものであり、証拠能力が欠如していると主張して上告した。
あてはめ
被告人自身の自白については、犯行から19日目、勾留後4日目になされたものであり、犯罪の性質等に照らせば「不当に長い拘禁」後のものとはいえない。また、共犯者Aの供述についても、勾留後25日目になされたものであり、同様に不当な拘禁とはいえない。さらに、原審が証拠としたAの供述内容は、被告人の殺意や具体的関与を説明する「他人の犯罪事実」に関する部分であり、これは憲法38条3項にいう被告人自身の「自白」には該当しない。したがって、これらを証拠として事実認定を行った原判決に憲法違反はない。
結論
共犯者の自白は、被告人本人の自白ではないため、憲法38条3項の制限を受けず、補強証拠なしに被告人の犯罪事実を認定する証拠とすることができる。上告棄却。
実務上の射程
共犯者の供述の証拠能力および補強証拠の要否に関するリーディングケースである。答案上では、共犯者の供述を「被告人本人の自白」と同視せず、伝聞例外等の要件を満たせば、補強証拠がなくとも有罪認定の直接証拠にできる根拠として用いる。
事件番号: 昭和25(あ)2389 / 裁判年月日: 昭和26年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白以外に、証人の供述や鑑定書等の補強証拠が存在する場合には、憲法38条3項及び刑訴法319条2項にいう「自白のみによる有罪判決」には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が犯行を認める自白をしていた事案において、第一審判決は当該自白を証拠として採用した。しかし、これに加えて、証人Aおよび…
事件番号: 昭和22(れ)136 / 裁判年月日: 昭和22年12月16日 / 結論: 棄却
犯罪事實の一部について證據として本人の自白があるだけで他の證據がない場合でも、その自白と他の證據を綜合して、犯罪事實全體を認定することは、刑訴應急措置法第一〇條第三項の規定に違反するものではない。