死亡退職金の支給等を定めた滋賀県学校職員退職手当支給条例の規定に、死亡退職金の支給を受ける者の第一順位は内縁の配偶者を含む配偶者であつて、配偶者があるときは他の遺族は全く支給を受けないこと、当該職員の死亡当時主としてその収入によつて生計を維持していたか否かにより受給の順位に差異を生ずることなど、受給権者の範囲及び順位につき民法の規定する相続人の順位決定の原則とは異なる定め方がされている場合には、右死亡退職金の受給権は、受給権者である遺族固有の権利であり、当該職員の遺贈の対象とはならない。
県学校職員の死亡退職金の受給権が受給権者である遺族固有の権利であり当該職員の遺贈の対象とはならないとされた事例
滋賀県学校職員手当支給条例(昭和28年滋賀県条例第25号)2条,滋賀県職員退職手当条例(昭和28年滋賀県条例第24号)2条,滋賀県職員退職手当条例(昭和28年滋賀県条例第24号)11条,民法964条
判旨
公務員の死亡退職手当は、遺族の生活保障を目的として条例等により受給権者及び順位が民法の相続規定と異なり直接定められている場合、相続財産には属さず、受給権者の固有の権利となる。
問題の所在(論点)
条例に基づき支給される死亡退職手当が、死亡した職員の相続財産(民法896条)に含まれ、遺贈の対象となり得るか。
規範
死亡退職手当の受給権が相続財産に属するか否かは、当該支給規定の趣旨により判断される。規定が、受給者の範囲や順位について民法の相続規定と著しく異なる定めをしている場合には、専ら遺族の生活保障を目的とし、民法とは別の立場で受給権者を定めたものと解される。この場合、受給権は相続人としての権利ではなく、当該規定に基づき直接取得する遺族固有の権利となる。
重要事実
滋賀県学校職員であったDが死亡した際、同県の退職手当支給条例に基づき死亡退職手当が支給されることとなった。当該条例では、受給者の第1順位を配偶者(事実婚を含む)とし、生計維持関係による順位の差異、直系血族における父母の優先、養方の実方への優先など、民法の相続順位とは著しく異なる独自の受給権者・順位が定められていた。Dが生前にこの退職手当を遺贈の対象にできるか、すなわち相続財産性が問題となった。
あてはめ
本件条例等の規定を確認すると、第一順位を配偶者とし、事実婚を保護対象に含めている点や、生計維持の有無で順位が変動する点、さらに養親を実親に優先させる点など、民法の相続法理とは明白に異なる基準を採用している。これは、退職手当が亡職員の遺産を分配するものではなく、残された遺族の生活保障を優先的に図るという目的を有していることを示している。したがって、当該手当は職員の死亡時に当然に受給権者の固有の権利として発生するものであり、職員自身の財産として承継されるものではないといえる。
結論
死亡退職手当の受給権は亡Dの相続財産には属さないため、遺贈の対象とすることはできない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
死亡退職手当の相続財産性を否定するリーディングケースである。答案上は、まず「当該支給規定が相続財産と別異の定めをしているか」をチェックし、生計維持要件や独自順位の存在を指摘して「生活保障目的」を認定、相続財産性を否定する流れで使用する。なお、本判決は公務員の条例に関するものだが、私企業の就業規則等の規定においても、同様の順位規定があれば同様の法理が適用される(最高裁昭55年11月27日参照)。
事件番号: 昭和59(オ)504 / 裁判年月日: 昭和62年3月3日 / 結論: 棄却
死亡退職金の支給規程のない財団法人において理事長の死亡後同人に対する死亡退職金として支給する旨の決定をし同人の妻に支払われた金員は、特段の事情のない限り、相続財産に属するものではなく、妻個人に属するものと認めるべきものとした原審の認定判断は相当である。