一 条例で特別職に対する退職金の給付は、その都度議会の決議で定めることにしてあつても、右退職金の給与は公法上の給与であつて、民法上の贈与ではない。 二 退職金の給与を議会の議決で定めた後、右の給与について予算上の措置が講じられていなかつたからといつて、さきの議決を取り消すことはゆるされない。
一 条例で特別職に対する退職金の給付はその都度議会への議決で定めるとしている場合の右退職金の性質 二 退職金の給与を議会の議決で定めた後に右の議決を取り消すことの可否
地方自治法205条,地方自治法239条の4第1項,民法549条
判旨
地方自治法に基づく退職金の給与は公法上の給与であり、議会の議決により具体的な請求権が発生した後は、当該議決に瑕疵がない限り、事後的にこれを取り消すことは許されない。
問題の所在(論点)
1. 地方自治法に基づく特別職の退職金給与の法的性質(民法上の贈与か公法上の給与か)。 2. 退職金支給を決定した議会の議決に瑕疵があるといえるか、また、議決後に成立した具体的な請求権を事後の議決で取り消すことができるか。
規範
地方公共団体の特別職に対する退職金の給与は、地方自治法の規定に基づき公法上の給与としての性質を有する。議会の議決によって退職金給与が決定された場合、これにより受給権者の退職金請求権は具体的に発生する。一度具体的に発生した請求権は、議決に重大な瑕疵があるなどの特段の事情がない限り、後の議会による取消や撤回によって遡及的に消滅させることはできない。また、予算の有無は議決に基づく支払義務の成否に影響を及ぼさない。
重要事実
元村長である被上告人に対し、村議会が75万円の退職金を支給する旨の議決を行った。しかし、その後、村(上告人)側は「財源上不可能であるにもかかわらず可能と誤信してなされた議決であり無効である」「利益を受ける者によって提出された議案に基づくものである」などと主張。さらに、後の新村議会において、当該退職金支給の議決を取り消す旨の議決がなされたため、被上告人への支払義務はないと争った。
あてはめ
まず、退職金は地方自治法205条等に規定された公法上の給与であり、民法上の贈与ではない。次に、議案が利益関係者から提出されたとしても、議会は独立して判断可能であるため、直ちに議決が無効とはならない。また、財政上の誤信も議決の効力を左右せず、議決があれば予算の有無にかかわらず支払義務が生じる。本件では、当初の議決によって被上告人の退職金請求権が具体的に発生しており、その後に議決に瑕疵があるとは断定できない以上、事後の取消議決によって既得権を奪うことは許されないと評価される。
結論
被上告人の退職金請求権は当初の議決により有効に成立しており、上告人はその支払義務を免れない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
地方公共団体の議決によって発生した公法上の権利(既得権)の保護について示した判例である。行政処分の取消しの制限と同様の理理が、議決に基づく具体的請求権にも及ぶことを示唆している。答案上は、公法上の法律関係における信頼保護や法的安定性の文脈で、一度発生した権利を事後的な政治判断(議決)で覆すことの可否を論じる際に参照すべきである。
事件番号: 昭和60(オ)104 / 裁判年月日: 昭和63年2月16日 / 結論: 破棄自判
農業協同組合の合併に伴つて新たに作成された退職給与規程の退職金支給倍率の定めが一つの旧組合の支給倍率を低減するものであつても、それによる不利益は退職金額算定の基礎となる基本月俸が合併後増額された結果軽減される一方、右支給倍率の低減が、合併前に右組合のみが県農業協同組合中央会の退職金支給倍率適正化の指導・勧告に従わなかつ…
事件番号: 昭和56(オ)1173 / 裁判年月日: 昭和58年7月15日 / 結論: 棄却
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事件番号: 平成26(オ)77 / 裁判年月日: 平成27年12月14日 / 結論: 破棄自判
退職一時金に付加して返還すべき利子の利率の定めを政令に委任する国家公務員共済組合法(平成24年法律第63号による改正前のもの)附則12条の12第4項及び同条の経過措置を定める厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成8年法律第82号)附則30条1項は,憲法41条及び73条6号に違反しない。