保証人が民法四六〇条に基づいて主たる債務者に対して取得するいわゆる事前求償権は、これを自働債権として相殺の用に供しえない。
保証人が民法四六〇条に基づいて主たる債務者に対して取得するいわゆる事前求償権を自働債権とする相殺の可否
民法460条,民法461条1項,民法505条1項
判旨
委託を受けた保証人が民法460条に基づき取得する事前求償権は、民法461条1項が主たる債務者に認める担保供与請求権等の抗弁権を奪う結果となるため、自働債権として相殺に供することはできない。
問題の所在(論点)
保証人が主たる債務者に対して有する事前求償権(民法460条)を自働債権として、主たる債務者に対する債務と相殺することができるか。また、主たる債務者が無資力である等の事情によってその結論は左右されるか。
規範
委託を受けた保証人が民法460条に基づいて取得する事前求償権は、法定相殺における自働債権としての要件に欠け、保証人はこれを相殺の用に供し得ない。なぜなら、事前求償権の行使に対し、主たる債務者は民法461条1項に基づき、債権者が債権全額の弁済を受けない間は保証人に対し担保の供与等を請求し、これがあるまで求償に応ずることを拒絶し得る抗弁権を有するところ、相殺を認めると主たる債務者から右抗弁権行使の機会を不当に奪い不公平な結果を招くからである。この理は、債権者が全額の弁済を受けたことと同一視し得ない限り、主たる債務者が無資力で、保証人が自己の不動産に担保を設定している場合でも同様に妥当する。
重要事実
被上告人は、訴外会社(主たる債務者)の債務を連帯保証し、自己の不動産に担保を設定した。被上告人は、同社に対する借受金債務を負っていたところ、主たる債務者の破産等を理由に、民法460条2号に基づき取得した事前求償権を自働債権とし、自らの借受金債務を受働債権として相殺(本件相殺)の意思表示をした。当時、主たる債務者は支払能力を欠いていたが、保証人である被上告人による全額の弁済は未了であった。
事件番号: 昭和35(オ)469 / 裁判年月日: 昭和37年2月16日 / 結論: 棄却
仮登記後本登記をするまでの間に、仮登記義務者により本登記の目的たる権利と相容れない処分が行われ、これに基づく第三者の権利取得の登記がなされたとしても、右本登記が為された以上、右第三者の権利取得は否認され、その登記の抹消を求めることができる。(同旨、昭和三二年六月七日第二小法廷判決、民集一一巻九三六頁、昭和三二年六月一八…
あてはめ
本件において、被上告人は主たる債務者に対し事前求償権を有し、これを自働債権として本件相殺を行った。しかし、債権者である訴外協会は全額の弁済を受けておらず、主たる債務者たる訴外会社には、民法461条1項に基づく抗弁権が認められるべき余地が残されている。主たる債務者が支払能力を欠き、被上告人が担保を提供している事実があるとしても、それのみでは債権者が全額の弁済を受けたのと同視することはできない。したがって、主たる債務者から抗弁権行使の機会を奪う本件相殺は認められないといえる。
結論
事前求償権を自働債権とする相殺は認められない。したがって、本件相殺は無効であり、被担保債権が消滅したことを前提とする本件仮登記等の抹消請求は認められない。
実務上の射程
司法試験等の答案上では、事前求償権の特殊性(抗弁権が付着していること)から相殺の適状を否定する文脈で使用する。事後求償権との違いや、民法461条の抗弁権の趣旨に遡って論証することが肝要である。主たる債務者が無資力であっても、特段の事情がない限りこの規範は維持される点に注意が必要である。
事件番号: 昭和39(オ)255 / 裁判年月日: 昭和41年12月6日 / 結論: 棄却
代物弁済の予約が成立するためには、代物弁済によつて消滅すべき債権の数額が当初より一定していることを要しないが、少くとも一定しうべき基礎が定められていることを要する。
事件番号: 昭和59(オ)594 / 裁判年月日: 昭和63年4月8日 / 結論: その他
物上保証人からされた被担保債権の将来の弁済を原因とする抵当権設定登記又はいわゆる仮登記担保権の仮登記の抹消登記手続を求める請求は、将来物上保証人が被担保債権を弁済することを条件としても、認容することができる。