甲を債務者とする債務の担保のため乙所有の不動産についてされた抵当権設定登記において、債務者が乙と表示されていても、かかる債務者の表示の不一致は更正登記により訂正することができ、右抵当権設定登記は有効である。
債務者の表示が実体に符合しない抵当権設定登記が有効とされた事例
民法369条,不動産登記法1条,不動産登記法119条
判旨
抵当権設定登記における債務者の表示が実体と符合しない場合であっても、その不一致が直ちに当該登記を無効とするものではない。
問題の所在(論点)
抵当権設定登記において債務者の表示が実体と符合しない場合、当該登記は無効となるか(不動産登記法上の公示の有効性)。
規範
登記の有効性は、実体上の権利関係を公示するに足りるか否かによって判断される。登記の記載の一部に実体と不一致がある場合であっても、それが登記事項の重要部分に及ばず、なお実体的な権利関係を公示するものとして許容できる範囲内であれば、当該登記は有効と解すべきである。
重要事実
抵当権の設定登記がなされていたが、その登記上の債務者の表示が実体上の債務者と一致していなかった。この不一致を理由として、当該抵当権設定登記の効力が争われた。
事件番号: 昭和55(オ)1006 / 裁判年月日: 昭和56年10月30日 / 結論: 棄却
被担保債権である将来発生すべき求償債権を既発生の賃金債権と表示してされた抵当権設定仮登記であつても、その後同額の求償債権が現実に発生して存在しており、登記原因とされた賃金債権は右求償債権を目的とするもので、債務者がこれにつき抵当権設定の意思を表示し、かつ、被担保債権の表示、特定等をすべて債権者に任せていた等原判示の事情…
あてはめ
本件における債務者表示の不一致は、原審(判決文からは詳細不明)の確定した事実関係によれば、抵当権自体の実体的な成立を否定するほどのものではない。債務者の表示が一部実体と異なっていても、担保権の設定という実体関係自体は存在しており、登記全体として実体上の権利関係を公示する機能を果たしているといえる。したがって、右不一致は登記そのものを無効とする事由にはあたらないと評価される。
結論
債務者の表示が実体と符合しない場合であっても、そのことのみをもって抵当権設定登記が無効になるわけではない。
実務上の射程
登記の一部不一致と有効性の論点(表示の更正の可否等)において、登記の公示機能を重視しつつも、些末な不一致による無効を否定する基準として引用できる。ただし、本判決は事案の具体的内容が簡略であるため、実際の起案では「実体関係の同一性」が認められる範囲内であることを強調して用いるべきである。
事件番号: 昭和45(オ)1154 / 裁判年月日: 昭和46年3月26日 / 結論: 棄却
甲からの手形の割引による金員の借用の申込を諒承した銀行が、甲と銀行との間に従前取引がなかつたため、貸付の便宜上銀行と取引関係のある乙を借主とし、甲を担保提供者として甲所有の土地に根抵当権を設定して右手形の割引をすることとして右土地につき根抵当権を設定した場合において、右根抵当権の債務者を乙、被担保債権を銀行の乙に対する…
事件番号: 昭和35(オ)234 / 裁判年月日: 昭和37年10月5日 / 結論: その他
甲乙丙三棟の建物を所有する債務者が、未登記の甲建物の所有権保存登記をなすべく司法書士に委任したところ、甲建物を主たる建物、乙丙建物を付属建物と表示する登記がなされ、次いで、債権者の手により甲乙丙建物を目的物とする抵当権設定登記が経由されたのに対し、抵当権設定契約の不存在を理由として右抵当権設定登記の抹消登記手続を請求す…
事件番号: 昭和52(オ)595 / 裁判年月日: 昭和54年4月17日 / 結論: 破棄差戻
登記が偽造文書による登記申請に基づいてされた場合に登記義務者において登記の無効を主張することができないものというためには、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者においてその登記を拒みうる特段の事情がないというだけでなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があることを要す…
事件番号: 昭和26(オ)840 / 裁判年月日: 昭和29年3月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産登記の記載が取得原因において事実と異なっていたとしても、現在の権利関係に合致している限り、その登記の抹消を請求することはできない。 第1 事案の概要:亡Dは、隠居前に本件不動産を被上告人に対して贈与した。しかし、本件不動産に関する登記上の取得原因は、この贈与という事実とは異なる内容で記載され…