登記が偽造文書による登記申請に基づいてされた場合に登記義務者において登記の無効を主張することができないものというためには、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者においてその登記を拒みうる特段の事情がないというだけでなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があることを要するものと解すべきであり、右の最後の要件の存在を認定しないで、右登記の抹消を求めえないものとした原判決には、偽造文書による登記の効力に関する法令の解釈適用を誤り、ひいて理由不備を犯した違法がある。
偽造文書による登記を有効とした原審の判断に違法があるとされた事例
不動産登記法25条,不動産登記法26条,不動産登記法35条
判旨
偽造文書による登記申請がなされた場合、登記が実体的法律関係に符合し、かつ登記義務者が登記を拒む正当な利益を有しないだけでなく、登記権利者が当該申請が適法であると信ずるにつき正当の事由がある場合に限り、登記義務者はその無効を主張できない。ただし、あらかじめ登記申請の代理権が授与されていれば、預託された実印を用いて委任状を作成しても偽造とはならず、当該登記は有効となる。
問題の所在(論点)
登記申請書類が偽造された場合において、登記義務者が当該登記の無効を主張することが許されないための要件。また、代理権の授与がある場合に、受任者が作成した委任状に基づく登記申請が有効といえるか。
規範
登記が偽造文書によってなされた場合、登記義務者がその無効を主張し得ないためには、①登記の記載が実体的法律関係に符合すること、②登記義務者においてその登記を拒絶し得る特段の事情(同時履行の抗弁等)がないこと、に加え、③登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があることを要する。ただし、登記権利者に包括的な登記申請の代理権が授与されていた場合には、形式的に委任状を別途作成したとしても、それは代理権の行使であって有効な登記となる。
事件番号: 昭和33(オ)87 / 裁判年月日: 昭和33年10月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理権のない者が勝手に本人の実印を持ち出して委任状を偽造し、消費貸借契約や抵当権設定登記を行っても、本人がそれを適法な代理権に基づくものと認めた事情や、特段の表見代理の成立が認められない限り、その効果は本人に帰属しない。 第1 事案の概要:上告人は、訴外Dとの間でりんごの取引を行っていたが、Dが生…
重要事実
農地の売買契約(昭和37年10月3日付)に基づき、被上告人が登記義務者D(上告人らの先代)の実印を預かり、それを用いて登記委任状を作成して仮登記を申請した。上告人らは、当該委任状は冒用による偽造であり、本件仮登記は無効であるとして抹消を求めた。原審は、実体関係との符合およびDに登記を拒む正当な利益がないことを理由に請求を棄却したが、被上告人の善意無過失(正当の事由)については判断していなかった。
あてはめ
本件では、実体的な売買契約が存在し仮登記の基礎はある(要件①)。また、Dに同時履行の抗弁権等による登記拒絶の正当な利益が認められない(要件②)。しかし、原審は被上告人の「正当の事由」(要件③)を認定していないため、これのみでは無効主張を封じることはできない。一方で、売買契約書と一体の委任状が存在し、農地売買の性質上、Dが被上告人に仮登記申請の代理権を授与していた可能性がある。もし適法な代理権があるならば、預託された実印で委任状を作成しても偽造には当たらず、登記は有効となる。
結論
登記権利者に正当の事由があるか、または適法な代理権の授与があったといえるかについてさらに審理を尽くさせるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
偽造文書による登記の効力に関するリーディングケース(最判昭41・11・18)を引用・再確認したものである。答案上では、不動産登記の無効主張に対し、信義則(または実体符合の法理)による反論として3要件(実体符合・特段の事情の不在・正当事由)を提示する際に用いる。また、事実上の代理権授与がある場合の有効性判断の枠組みとしても活用できる。
事件番号: 昭和39(オ)77 / 裁判年月日: 昭和41年11月18日 / 結論: 棄却
一 登記申請行為自体には、表見代理に関する民法の規定の適用はない。 二 偽造文書によつて登記がされた場合でも、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者において登記申請を拒むことができる特段の事情がなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があるときは、登記義務者は右登記の無…
事件番号: 昭和39(オ)1107 / 裁判年月日: 昭和42年2月23日 / 結論: 棄却
昭和三九年(オ)第七七号同四一年一一月一八日第二小法廷判決(民集二〇巻九号一八二七頁掲載)と同旨。
事件番号: 昭和40(オ)583 / 裁判年月日: 昭和42年10月27日 / 結論: 棄却
無権代理人の偽造文書による申請に基づいて登記がされた場合においても、本人が右登記の原因たる法律行為を追認したことによりその登記の記載が実体的法律関係に符合するにいたつたときには、本人は、右登記の無効を主張してその抹消登記手続を請求することはできない。
事件番号: 昭和43(オ)732 / 裁判年月日: 昭和45年11月19日 / 結論: 破棄差戻
甲が、乙からその所有不動産を買い受けたものであるにもかかわらず、乙に対する貸金を被担保債権とする抵当権と、右貸金を弁済期に弁済しないことを停止条件とする代物弁済契約上の権利とを有するものとして、抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を経由した場合において、丙が乙から右不動産を買い受けて所有権取得登記を経由した…