甲からの手形の割引による金員の借用の申込を諒承した銀行が、甲と銀行との間に従前取引がなかつたため、貸付の便宜上銀行と取引関係のある乙を借主とし、甲を担保提供者として甲所有の土地に根抵当権を設定して右手形の割引をすることとして右土地につき根抵当権を設定した場合において、右根抵当権の債務者を乙、被担保債権を銀行の乙に対する取引債権とし、しかも、銀行が甲の右手形の割引を拒否したものであるときは、右根抵当権設定の登記は、実体関係に符合せず、無効と解すべきである。
銀行が担保権者としてなした根抵当権の設定登記が無効であるとされた事例
民法569条
判旨
根抵当権設定登記において記載された債務者および被担保債権が実体の債務関係と異なり、かつ予定されていた融資(手形割引)が実行されなかった場合、当該登記は実体関係に符合しないものとして無効である。
問題の所在(論点)
根抵当権設定登記における債務者および被担保債権の表示が実体上の合意と異なり、かつ、予定されていた融資が実行されなかった場合、当該登記の効力はどうなるか。
規範
不動産登記が実体上の権利関係と合致しない場合、その登記は原則として無効である。特に根抵当権において、登記上の債務者および被担保債権の種類が真実の債務者および被担保債権と相違し、かつ、予定されていた被担保債権自体が将来にわたって発生しないことが確定した場合には、登記の流用等の特段の事情がない限り、当該登記は無効と解すべきである。
重要事実
被上告人(土地所有者)は、上告銀行から手形割引による融資を受けるため、便宜上、銀行と取引のあるG社を債務者、被上告人を担保提供者として本件土地に根抵当権を設定する合意をした。しかし、登記上の債務者はG社、被担保債権の内容も真実(被上告人の手形割引債務)とは異なる内容で登記された。その後、銀行は被上告人が申し込んだ手形割引をすべて拒否し、結局、本件根抵当権が担保すべき債務は一切発生しなかった。
事件番号: 昭和34(オ)415 / 裁判年月日: 昭和37年5月24日 / 結論: 破棄自判
甲の代理人丙が、その権限をこえて乙との間に甲所有の不動産につき乙のために根抵当権設定契約を締結し、かつ甲名義の偽造登記申請委任状によつてその登記をなした場合、右設定契約を締結しおよび登記申請委任状を乙に交付する等登記申請に協力する関係において、乙が丙に右設定契約の締結ならびに登記の申請について甲の代理権ありと信ずべき正…
あてはめ
本件では、真実の債務者は被上告人であり、被担保債権は手形割引債務であったが、登記上の債務者はG社とされ、被担保債権の表示も相違していた。さらに、上告銀行は根抵当権設定の目的であった被上告人の手形割引を拒否しており、本件根抵当権が担保すべき実体債務は発生していない。したがって、登記上の表示と実体関係には著しい乖離があり、かつ今後も実体化する見込みがないため、本件登記は実体関係に符合しないものといえる。
結論
本件根抵当権設定登記は、実体関係に符合しない無効なものというべきである。
実務上の射程
登記の公信力が認められない現行法下において、登記の有効性を判断する「実体関係との符合」の基準を示す。特に、便宜上の名義を用いた登記が、その前提となる原因行為(融資等)の不成立によって無効となることを明示した事案として、不当利得返還請求や登記抹消請求の場面で活用できる。
事件番号: 昭和39(オ)77 / 裁判年月日: 昭和41年11月18日 / 結論: 棄却
一 登記申請行為自体には、表見代理に関する民法の規定の適用はない。 二 偽造文書によつて登記がされた場合でも、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者において登記申請を拒むことができる特段の事情がなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があるときは、登記義務者は右登記の無…
事件番号: 昭和25(オ)104 / 裁判年月日: 昭和25年10月24日 / 結論: 棄却
登記されない抵当権であつても、当事者間においては、権利実行の要件を備えるかぎり、競売法の規定するところに従い、抵当権の実行による競売手続を有効に行い得るものである。
事件番号: 昭和25(オ)377 / 裁判年月日: 昭和27年12月4日 / 結論: 棄却
四月一三日に成立した消費貸借上の債務につき、同月三〇日になされた抵当権設定登記において、右消費貸借成立の日が三月三一日と表示されていても、同一の消費貸借を表示するものである以上、右登記は有効である。
事件番号: 昭和55(オ)864 / 裁判年月日: 昭和56年2月24日 / 結論: 棄却
甲を債務者とする債務の担保のため乙所有の不動産についてされた抵当権設定登記において、債務者が乙と表示されていても、かかる債務者の表示の不一致は更正登記により訂正することができ、右抵当権設定登記は有効である。