被担保債権である将来発生すべき求償債権を既発生の賃金債権と表示してされた抵当権設定仮登記であつても、その後同額の求償債権が現実に発生して存在しており、登記原因とされた賃金債権は右求償債権を目的とするもので、債務者がこれにつき抵当権設定の意思を表示し、かつ、被担保債権の表示、特定等をすべて債権者に任せていた等原判示の事情のもとでは、右仮登記は有効である。
将来発生する求償債権を既発生の賃金債権としてされた抵当権設定仮登記の効力
不動産登記法117条
判旨
抵当権設定仮登記が表見上は消費貸借を原因とするものであっても、設定者の意思に基づき、かつその意思の範囲内で行われたものであれば、当該仮登記は有効である。また、代物弁済契約における錯誤の主張は、客観的事実関係に照らして錯誤が認められない場合には排斥される。
問題の所在(論点)
1. 登記上の原因と実態が異なる抵当権設定仮登記の有効性。2. 代物弁済契約における錯誤無効の成否。
規範
登記原因が事実と異なり表見上のもの(例:消費貸借)であっても、設定者の真実の意思に基づく設定行為であり、かつその意思の範囲内(限度内)でなされたものであれば、実体関係と符合するものとして有効と解すべきである。また、代物弁済等の意思表示における錯誤(民法95条)の成否は、表意者の主観のみならず、客観的事実関係に基づき判断される。
重要事実
上告人A1は、本件土地に抵当権設定仮登記を経由したが、登記上の原因は消費貸借とされていた。しかし、実態としてはA1の意思に基づく範囲内での設定であった。また、上告人A2は本件土地につき代物弁済契約を締結したが、後に当該契約に錯誤があったと主張してその無効を争った。
事件番号: 昭和55(オ)864 / 裁判年月日: 昭和56年2月24日 / 結論: 棄却
甲を債務者とする債務の担保のため乙所有の不動産についてされた抵当権設定登記において、債務者が乙と表示されていても、かかる債務者の表示の不一致は更正登記により訂正することができ、右抵当権設定登記は有効である。
あてはめ
1. 本件抵当権設定仮登記は、表見上は消費貸借を原因としているものの、上告人A1の真実の意思に基づいてなされており、かつその合意の範囲内での登記であるといえる。したがって、登記原因の不一致は登記の効力を妨げない。2. 上告人A2の錯誤主張については、原審が確定した事実関係に照らせば、契約締結に際して主張のような錯誤が存在したとは認められない。客観的な状況から、A2の認識と表示に齟齬があるとは評価できない。
結論
本件抵当権設定仮登記は有効であり、また代物弁済契約に錯誤は認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
物権変動の登記において、登記原因(原因事由)が実体と異なっていても、当事者の設定意思の範囲内であれば有効とする「実体関係との符合」の理屈を補強する事案である。答案上は、登記の有効性を争う場面や、虚偽表示・錯誤の成否を論じる際の事実認定の枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和52(オ)595 / 裁判年月日: 昭和54年4月17日 / 結論: 破棄差戻
登記が偽造文書による登記申請に基づいてされた場合に登記義務者において登記の無効を主張することができないものというためには、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者においてその登記を拒みうる特段の事情がないというだけでなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があることを要す…
事件番号: 昭和25(オ)377 / 裁判年月日: 昭和27年12月4日 / 結論: 棄却
四月一三日に成立した消費貸借上の債務につき、同月三〇日になされた抵当権設定登記において、右消費貸借成立の日が三月三一日と表示されていても、同一の消費貸借を表示するものである以上、右登記は有効である。
事件番号: 昭和31(オ)445 / 裁判年月日: 昭和31年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実認定において、相反する当事者の陳述や証人の証言から、いずれを信用して採用し、いずれを排斥するかは、特段の事情がない限り裁判所の自由な心証に委ねられる。 第1 事案の概要:上告人は、消費貸借の弁済期に関する認定、および被上告人による弁済の提供の事実認定に際し、原審が特定の陳述を信用し、他を排斥し…
事件番号: 昭和35(オ)1076 / 裁判年月日: 昭和36年12月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地法5条1項に基づき知事が与えた農地転用許可は、土地の客観的性質を変更させるものであり、申請人以外の第三者に対しても、当該土地を宅地として取り扱うべき効力を生ずる。 第1 事案の概要:上告人と訴外Dは、本件土地(田・畑)を宅地に転用することについて、農地法5条1項に基づき知事から共同で転用許可を…