甲乙夫婦の乙に縁組意思がない夫婦共同の養子縁組につき、甲が永年乙と同居しながら突如別居して単身で縁組の相手方と同居したため乙の家庭と縁組の相手方との間に紛争を生じ、また、縁組により甲乙間の子らの相続分が減少することが乙の意思に反し、かつ、乙の家庭内の円満を害する可能性を多分に含んでいる等、原判示の事実関係のもとにおいては、いまだ甲と相手方との間においてのみ縁組を有効とすることを妨げない特段の事情があるとはいえない。
夫婦の一方に縁組意思のない夫婦共同養子縁組につきその他方と縁組の相手方との間に単独でも養親子関係を成立させることが民法七九五条本文の趣旨にもとるものではないと認められる特段の事情がないとされた事例
民法795条
判旨
夫婦が共同して養子縁組を届け出たが、一方に縁組意思がない場合、原則として両者につき縁組は無効となるが、他方と養子との間に単独で親子関係を成立させることが民法795条本文の趣旨に反しない特段の事情があれば、当該他方の縁組は有効となる。
問題の所在(論点)
配偶者のある者が縁組をする場合に夫婦が共同で行わなければならないと定める民法795条本文の制限下において、夫婦の一方に縁組意思がない場合、他方の配偶者と養子との間の縁組のみを有効と認める余地があるか。
規範
夫婦共同縁組(民法795条)の届出において一方に縁組の意思が欠ける場合、原則として縁組全体が無効となる。しかし、縁組意思を有する他方の配偶者と相手方との間に単独でも親子関係を成立させることが、夫婦が共同して縁組をすべきとする同条の趣旨にもとるものではないと認められる「特段の事情」がある場合には、例外的にその部分の縁組のみを有効と解すべきである。
重要事実
亡Dとその配偶者が、共同して上告人A1、A2、A3と養子縁組をする旨の届出を行った。しかし、配偶者の側には縁組をする意思が欠けていた。上告人らは、Dとの間だけでも縁組が有効に成立していると主張し、Dとの親子関係の有効性を争った。原審は、Dと上告人らとの間に単独で縁組を成立させるべき特段の事情はないと判断し、縁組全体を無効とした。
事件番号: 昭和47(オ)209 / 裁判年月日: 昭和48年4月12日 / 結論: 棄却
一、夫婦が共同して養子縁組をするものとして届出がされたところ、その一方に縁組をする意思がなかつた場合には、原則として、縁組の意思のある他方の配偶者についても縁組は無効であるが、その他方と縁組の相手方との間に単独でも親子関係を成立させることが民法七九五条本文の趣旨にもとるものではないと認められる特段の事情がある場合には、…
あてはめ
民法795条が共同縁組を強制する趣旨は、家庭平和の維持や養子の福祉にある。一方に意思がない場合、原則としてこの趣旨を害するため全体が無効となるが、個別具体的な事情に照らし、単独で親子関係を認めても同条の趣旨に反しないといえる「特段の事情」の有無が検討されるべきである。本件では、原審の認定した事実関係において、Dと上告人らとの間にのみ縁組を有効とすべき特段の事情は認められないと判断された。
結論
夫婦の一方に縁組意思がない以上、原則として全体が無効であり、単独で有効とすべき特段の事情も認められない本件においては、Dと上告人らとの間の縁組も無効である。
実務上の射程
夫婦共同縁組の原則に対する例外枠組みとして「特段の事情」理論を提示した。答案上は、まず民法795条違反による原則無効を指摘しつつ、実質的な親子関係の定着度や、夫婦関係の実態(破綻の有無等)を踏まえて「特段の事情」による一部有効の余地を検討する流れで用いる。
事件番号: 昭和23(オ)85 / 裁判年月日: 昭和23年12月23日 / 結論: 棄却
一 旧民法第八五一条第一号(新民法第八〇二条第一号)にいわゆる「当事者間に縁組をする意思がないとき」とは、当事者間において真に養親子関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指し、たとえ養子縁組の届出自体については当事者間に意思の一致があつたとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものに過ぎないと…
事件番号: 昭和45(オ)975 / 裁判年月日: 昭和46年10月22日 / 結論: 棄却
養子縁組の当事者である甲男と乙女との間に、たまたま過去に情交関係があつたが、事実上の夫婦然たる生活関係が形成されるには至らなかつた場合において、乙は、甲の姪で、永年甲方に同居してその家事や家業を手伝い、家計をもとりしきつていた者であり、甲は、すでに高令に達し、病を得て家業もやめたのち、乙の世話になつたことへの謝意をもこ…
事件番号: 昭和45(オ)266 / 裁判年月日: 昭和45年11月24日 / 結論: 棄却
当事者間において養子縁組の合意が成立しており、かつ、その当事者から他人に対し右縁組の届出の委託がなされていたときは、届出が受理された当時当事者が意識を失つていたとしても、その受理の前に翻意したなど特段の事情のないかぎり、右届出の受理により養子縁組は有効に成立する。
事件番号: 昭和59(オ)236 / 裁判年月日: 昭和63年3月1日 / 結論: 棄却
第三者の提起する養子縁組無効の訴えは、養子縁組が無効であることによりその者が自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けないときは、訴えの利益を欠く。