一、夫婦が共同して養子縁組をするものとして届出がされたところ、その一方に縁組をする意思がなかつた場合には、原則として、縁組の意思のある他方の配偶者についても縁組は無効であるが、その他方と縁組の相手方との間に単独でも親子関係を成立させることが民法七九五条本文の趣旨にもとるものではないと認められる特段の事情がある場合には、縁組の意思を欠く当事者の縁組のみを無効とし、縁組の意思を有する他方の配偶者と相手方との間の縁組は有効に成立したものと認めることを妨げない。 二、甲男乙女夫婦を養親、幼児である丙を養子として届出のされた養子縁組につき、乙に縁組をする意思がなかつた場合であつても、右届出の当時、甲と乙とが別居しその婚姻共同生活の実体は少なくとも一〇年間は失われていて事実上の離婚状態が形成されていたものであり、甲および丙の親権者らは、乙とはかかわりなく甲丙間に縁組をする意思を有し、縁組後は、丙は、甲およびその事実上の妻丁に養育されて親子として生活をともにしており、甲丙間に親子関係が成立することは乙の意思にも反するものではなかつたなど判示の事実関係のもとにおいては、甲丙間においてのみ縁組を有効とすることを妨げない特段の事情が存在するものと認めるのが相当である。
一、養子縁組の当事者である夫婦の一方に縁組の意思がない場合における縁組の効カ ニ、養子縁組の当事者である夫婦の一方に縁組の意思がない場合に他方の配偶者について縁組が有効とされた事例
民法795条,民法802条1号
判旨
夫婦共同縁組において一方に縁組の意思がない場合、原則として縁組全体が無効となるが、単独でも親子関係を成立させる意思があり、かつ他方の配偶者の利益や家庭の平和、養子の福祉を害さない等の特段の事情があれば、意思のある側の縁組のみを有効と解すべきである。
問題の所在(論点)
夫婦の一方に縁組の意思がない場合における夫婦共同縁組(民法795条)の効力、および一方についてのみ有効と認められる余地があるか。
規範
民法795条本文が配偶者ある者の共同縁組を要求する趣旨は、夫婦相互の利害調整、家庭の平和維持、および養子の福祉の確保にある。したがって、夫婦共同縁組の届出のうち一方に縁組意思を欠く場合、原則として縁組全体が無効となる。しかし、①一方と相手方との間に単独でも親子関係を成立させる意思があり、②単独での親子関係成立が他方配偶者の意思に反せずその利益を害さず、③養親の家庭の平和を乱さず、④養子の福祉を害するおそれがないなど、同条の趣旨にもとらない特段の事情がある場合には、縁組意思のある当事者間の縁組のみを有効と認めることができる。
重要事実
夫Dと妻(上告人)は事実上の離婚状態にあり、Dは愛人Eと同居していた。DはEの希望により、上告人に無断で、D・上告人と被上告人との共同養子縁組を届け出た。実際には、D・E・被上告人の三人が10年間親子として生活を共にし、上告人は被上告人がDの養子となることを一貫して黙認していた。Dの死亡後、上告人が縁組の無効を主張した。
あてはめ
Dと被上告人の代諾権者には、上告人との縁組の成否に関わらず、Dとの間に縁組を成立させる意思があった。また、上告人とDの婚姻関係は10年以上形骸化しており、上告人はDと被上告人の縁組を黙認していた。したがって、Dとの間のみで親子関係を成立させることは、上告人の意思に反せず、家庭の平和を乱すものでもなく、被上告人の福祉にも反しない。以上の点から、Dとの間の縁組を単独で有効とする「特段の事情」が認められる。
結論
本件養子縁組のうち、意思を欠く上告人との間の縁組は無効であるが、意思を有する夫Dと被上告人との間の縁組は有効に成立する。
実務上の射程
夫婦共同縁組の原則無効を前提としつつ、実態として単独縁組と同様の状況(長期間の別居や黙認)がある場合に、有効性を切り分けるための例外基準(特段の事情)として活用できる。答案上は、まず原則無効を論じ、次に4要素を用いて「特段の事情」を具体的に検討する流れとなる。
事件番号: 昭和37(オ)1235 / 裁判年月日: 昭和38年12月20日 / 結論: 棄却
他の相続人の相続分を排することを主たる目的としなされた養子縁組であつても、親子としての精神的つながりをつくる意思が認められるかぎり無効ではない。
事件番号: 昭和45(オ)975 / 裁判年月日: 昭和46年10月22日 / 結論: 棄却
養子縁組の当事者である甲男と乙女との間に、たまたま過去に情交関係があつたが、事実上の夫婦然たる生活関係が形成されるには至らなかつた場合において、乙は、甲の姪で、永年甲方に同居してその家事や家業を手伝い、家計をもとりしきつていた者であり、甲は、すでに高令に達し、病を得て家業もやめたのち、乙の世話になつたことへの謝意をもこ…
事件番号: 昭和23(オ)85 / 裁判年月日: 昭和23年12月23日 / 結論: 棄却
一 旧民法第八五一条第一号(新民法第八〇二条第一号)にいわゆる「当事者間に縁組をする意思がないとき」とは、当事者間において真に養親子関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指し、たとえ養子縁組の届出自体については当事者間に意思の一致があつたとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものに過ぎないと…
事件番号: 昭和32(オ)1076 / 裁判年月日: 昭和33年4月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】養子縁組届が当事者の一方の不知の間にその意思に基づかずになされた場合、当該養子縁組をする意思がないものとして、その縁組は無効である。 第1 事案の概要:被上告人との間で養子縁組届(甲12号証)が提出されていたが、実際には被上告人には本件養子縁組をする意思が全くなかった。この養子縁組届は、被上告人が…