一 旧民法第八五一条第一号(新民法第八〇二条第一号)にいわゆる「当事者間に縁組をする意思がないとき」とは、当事者間において真に養親子関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指し、たとえ養子縁組の届出自体については当事者間に意思の一致があつたとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものに過ぎないときは、養子縁組は、効力を生じない。 二 養子関係の設定を欲する効果意思のないことによる養子縁組の無効は、絶対的のものであつて民法第九三条但書の適用をまつてはじめて無効となるのではない。
一 旧民法第八五一条第一号(新民法第八〇二条第一号)の意義 二 養子縁組の無効と民法第九三条但書
旧民法851条1号,新民法802条1号,新民法93条但書
判旨
養子縁組の届出について当事者間に意思の一致があっても、真に養親子関係の設定を欲する効果意思が欠ける場合には、民法802条1号により縁組は無効となる。
問題の所在(論点)
養子縁組が無効となる「当事者間に縁組をする意思がないとき」(民法802条1号)の意義、および届出の合意はあるが実体的な縁組意思を欠く場合の効力が問題となる。
規範
民法802条1号(旧民法851条1号)にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」とは、単に届出自体が当事者の意思に反する場合だけでなく、当事者間に真に養親子関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指す。したがって、届出自体に合意があっても、それが他の目的を達するための便法として仮託されたに過ぎないときは、縁組は無効である。また、この無効は絶対的なものであり、民法93条但書の適用(または準用)の余地はない。
重要事実
当事者間で養子縁組の届出を行うこと自体については合意があったが、その実態は他の目的を達成するための便宜上の手段として行われたものであった。原審は、諸般の事実を総合し、当事者間に「真に養親子関係の設定を欲する効果意思」がないと認定した。上告人は、届出の合意があれば足りる、あるいは民法93条但書による保護を受けるべきだと主張して争った。
事件番号: 昭和32(オ)1076 / 裁判年月日: 昭和33年4月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】養子縁組届が当事者の一方の不知の間にその意思に基づかずになされた場合、当該養子縁組をする意思がないものとして、その縁組は無効である。 第1 事案の概要:被上告人との間で養子縁組届(甲12号証)が提出されていたが、実際には被上告人には本件養子縁組をする意思が全くなかった。この養子縁組届は、被上告人が…
あてはめ
本件では、養子縁組の届出という形式的な行為については一致があったものの、それが真に養親子という身分関係を創設しようとする主観的な意図に基づくものではなく、単なる便法として仮託されたに過ぎない。このように「真に養親子関係の設定を欲する効果意思」を欠く以上、届出の合意があっても民法802条1号に該当し、縁組は無効と評価される。また、身分行為の性質上、表示と内心的意思の不一致を保護する心裡留保の規定を考慮する必要もない。
結論
真に養親子関係の設定を欲する効果意思がない場合、その養子縁組は無効である。本件縁組を無効とした原判決は正当である。
実務上の射程
婚姻や養子縁組などの身分行為において、判例が「実体的な意思(真に身分関係を創設する意思)」を重視していることを示す重要な判例。答案では、届出の意思はあるが目的が不当(不法入国目的や戸籍上の整理など)な事案において、民法802条1号(婚姻なら742条1号)の「意思」を解釈する際の規範として引用する。
事件番号: 昭和55(オ)1133 / 裁判年月日: 昭和56年4月24日 / 結論: 棄却
甲乙夫婦の乙に縁組意思がない夫婦共同の養子縁組につき、甲が永年乙と同居しながら突如別居して単身で縁組の相手方と同居したため乙の家庭と縁組の相手方との間に紛争を生じ、また、縁組により甲乙間の子らの相続分が減少することが乙の意思に反し、かつ、乙の家庭内の円満を害する可能性を多分に含んでいる等、原判示の事実関係のもとにおいて…
事件番号: 昭和37(オ)1235 / 裁判年月日: 昭和38年12月20日 / 結論: 棄却
他の相続人の相続分を排することを主たる目的としなされた養子縁組であつても、親子としての精神的つながりをつくる意思が認められるかぎり無効ではない。
事件番号: 昭和45(オ)975 / 裁判年月日: 昭和46年10月22日 / 結論: 棄却
養子縁組の当事者である甲男と乙女との間に、たまたま過去に情交関係があつたが、事実上の夫婦然たる生活関係が形成されるには至らなかつた場合において、乙は、甲の姪で、永年甲方に同居してその家事や家業を手伝い、家計をもとりしきつていた者であり、甲は、すでに高令に達し、病を得て家業もやめたのち、乙の世話になつたことへの謝意をもこ…